チェックアウトを済ませて一路西へ。昨晩からの雨の影響か、榛名湖周辺では50m先が見えるか見えないかというぐらいの濃霧に覆われていました。電車だったら間違いなく遅延が発生しているレベルですし、クルマならなおさら速度を落とさなければ危なくて仕方ありません。
榛名湖手前には「メロディーライン」といって時速50kmで走ると「静かな湖畔」が車内に聴こえてくる場所がありますが、濃霧の中でとてもそんなスピードは…時速30kmちょっとで通過するととんでもなくおどろおどろしい音楽になってしまいました。霧の濃さも相まってまるでホラーです。
恐ろしい思いをしながらやっと榛名神社に到着…
メロディーライン(群馬県 高崎市)「静かな湖畔」車外での聴こえ方 - GAZOO (YouTube)
榛名神社は晴れているよりも雨が降りそうなぐらいの湿気が多い日の方が雰囲気が出る気がします。その方がうっそうとした木々の感じがよく伝わってきますから。
参道の右側、沢を挟んだ反対側に見えるのは「瓶子(みすず)の滝」。細く流れ落ちる滝の両側にある岩を御神酒を入れる器に見立てて、この名前がつけられたそうです。
坂や階段をえっちらおっちら登ってきて、ようやく榛名神社の社殿に到着しました。
火の神「火産霊神(ほむすびのかみ)」と土の神「埴山毘売神(はにやまひめのかみ)」を祀る榛名神社。鎮火や五穀豊穣の御利益があるのだそうです。「雨乞講」という行事もあり、榛名神社のご神水を入れた竹筒を持ち帰り祈祷をするのだそうです。榛名神社の雨乞いはとても効力のあるものだったとか。
だからこそ雨っぽい天気の方が雰囲気が出るのかもしれませんね。
先ほどお詣りしたのは「拝殿」。その後ろの一段高くなっている本殿は岩に食い込むようにして作られています。榛名神社の真の本殿ともいえるのがこの「御姿岩(みすがたいわ)」で、この岩の穴に御神体が祀られているそうです。
日本帝国海軍が保有していた巡洋戦艦「榛名」の名はこの榛名神社から取られたもの。艦内神社も榛名神社から分祀されていました。海上自衛隊にもヘリコプター搭載護衛艦に「はるな」という船がありましたが(2009年除籍)、そちらは名前は同じでもそばにある榛名山から命名されたそうです。慣例的に海自でも艦内神社があるそうで、おそらく「はるな」でも榛名神社が祀られていたのでしょうね。
神社を降りてきました。昨日の夕方から降り続く雨の影響か、沢の流れはずいぶん速くなっています。
手を入れるととんでもなく冷たい!
遊歩道を上流の方へ歩いて行くと巨大な砂防ダムが見えてきました。高さ17m、幅69mという数字以上に大きく見えるこの壁は「榛名川上流砂防堰堤(えんてい)」という長々しい名前がついています。榛名川は1947年のカスリーン台風も含めて何度も水害を起こしてきました。そのたびに土砂災害が発生しており、土砂が大量に流出しないようつなぎ止めておく必要があったために1955年に建設された砂防ダムがこれだったのです。
国土の歴史的景観に寄与しているとして2006年に国の登録有形文化財になっています。
横の遊歩道を登っていくと堰堤の上、さらに榛名湖まで歩いて行くことができるそうです。堤の上にはカメラを持った外国人のお兄さんがいましたが、さすがに怖くてそこまでは近寄れません…
沢や川の流れを美しく撮影するにはシャッタースピードを落として撮影するのが定石。この写真では1/15秒まで落としています。初代RX100は手ブレ補正が貧弱なので、しっかり保持してあげないとぶれた写真を量産することになります。
榛名神社を出て再び草津の方向へ向かってきました。相変わらず雨が降ったりやんだりの安定しない天気ですが、バイクと違って雨や風を直接受けるわけではないので体力的にも精神的にもかなり楽です。走る楽しさはバイクの方がずっと上ですけどね。
「道の駅 八ッ場ふるさと館」に向かっていますが、国道406号線で長野原草津口駅の近くまで出てきたらいったん西側へ遠回りして県道に入ります。出かける前にGoogleマップを見ていたら、県道376号線という明らかに不自然な高規格道路が見えます(地図中赤色矢印)。八ッ場ダム建設に伴う生活再建事業として付け替えられた県道で、下を走る国道と違い立派なトンネルと橋で地形を貫いています。高速道路顔負けです。
国道をオーバークロスして「道の駅 八ッ場ふるさと館」に到着。
日曜日とあってそれなりに混雑しており、ちょっと覗いたところレストランもおおよそ席が埋まっています。13時半なのでまだお昼時なのかも。
席が空くまでダム湖へ散歩に行きましょう。
道の駅のすぐ横にある不動大橋からダム湖「八ッ場あがつま湖」を望みます。奥に見える橋は以前にも訪れた八ッ場大橋、さらにその奥に見える白い壁のようなものが八ッ場ダムの堤体です。
湖上を走っているのは水陸両用のバスです。「YAMBAダックツアー」はこの道の駅の駐車場を出て湖畔からそのままダム湖へ入り、1時間ちょっとの周遊をして帰ってくるというもの。
これにも乗ってみたかったのですが、致し方なく時間の都合で割愛…
これがダックツアーの車両です。床が低ければ沈んでしまうので当たり前ですが、地上に揚がると威圧的なまでの背の高さ…乗り込むのも結構大変そうですね。
フードコートが空いたのでお昼ご飯にしましょう。せっかくダムカレーがあるなら注文するしかありません。うれしいことにダムカードのオマケつき。群馬県の野菜を使ったカレーで、甘口(700円)は野菜、辛口(850円・写真)は舞茸が入っているのが違いです。辛口といってもヒリヒリするような辛さではなく中辛ぐらいでしょうか。
ダムカレーといえばご飯をダムの堤体に見立てているのが定番ですが、ここでは陶器製の堤体がご飯とルーを隔てています。ご飯はダムの下流にある吾妻渓谷の再現ということなのでしょうか。
ちなみに器とダム堤体はセットで販売もされていますので、自宅でも簡単に八ッ場ダムカレーを再現することができます。
お腹をいっぱいにしたらこの旅行で最後の入浴をしに行きましょう。道の駅にも足湯はありますが、やっぱり全身でお湯に浸りたいですよね。
「道の駅 八ッ場ふるさと館」から川原湯温泉の共同浴場「王湯」まではクルマで10分ほど。コロナウイルス感染防止ということで一定人数を超えると待ってもらうシステムになっており、我々も少しの間周囲を眺めながら待つことになりました。
川原湯温泉は八ッ場ダムの建設に伴って温泉街がまるごと高台に移動してきました。その際に源泉も掘り直しましたが、成分は古い温泉とは少し異なっているようです。
高台移転によって新しく建てられた「王湯」がこちら。新しいだけあってきれいな施設ですが、かなりこぢんまりとした感じ。確かに大人数で入るようなお風呂ではありません。
木のいい香りがするきれいな湯船は内湯と露天風呂があり、美しい自然を眺めながらゆったりと体を伸ばすことができます。
川原湯温泉は800年という長い歴史を持つ温泉街。玄関口である川原湯温泉駅には特急列車も停まっていましたが、移転後の2017年のダイヤ改正で普通列車のみの停車に格下げ。駅の乗降人数は1日18人と、今や群馬県内で最も少ない有人駅となっているのだそう。
利用者の呼び込みのため駅直結のキャンプ場とバーベキュー場が用意され、さらに温泉まで併設された施設が設置される予定です。この頃流行りのグランピングもできるようですから、初めてキャンプをするのにもいいかもしれません。
のんびりと温泉に浸っているとどんどん帰りたくなくなってきます。明日からまた仕事だなんて考えたくもない…
最後のあがきで八ッ場ダムを見に行くことにします。
外はすっかり雨模様ですし、2人はあさかぜほどダムに興味は無いようですが、ドライバーの特権として一緒に来てもらいます。まずは2018年6月に訪れた八ッ場大橋。左岸のたもとに駐車場が用意されていました。
以前とは少し角度が違いますが八ッ場大橋の上からダムの方角を眺めます。2年前には足下に広々と砂地が広がっていましたが、今は水の底へと消えてしまって見えません。こうして見てみるといかに広い範囲がダムによる影響を受けたかがよくわかります。
しかし地元の人たちがダム建設に反対する理由はよくわかりますが、治水利水の利益を受ける下流の人たちが建設中止の裁判などを起こしていたことはよくわかりません。何せ地元の人が一人もいないという無責任な裁判でしたからね。
さらに民主党政権時代の建設中止も、移転が完了し新たな生活を始めようと前向きになっていた人たちの決意を踏みにじるようなものでした。ことごとく身勝手で無責任です。
ちなみに八ッ場大橋の真ん中にはバンジージャンプができていました。あさかぜはとてもやりたくありませんが、ご興味のある方はやってみてはいかがでしょう…?落差は45mだそうです。想像するだけでゾッとする…
もっと下流側に移動してくると「やんば見放(みはらし)台」という展望台もあります。ここはその名の通りダムの堤体を一望できるところですが、自動販売機以外は何もないので長居をするところではなさそうです。雨が降っていたこともあって我々の他には誰もいませんでした。
何もないところですがダムの構造を観察するには良い場所です。写真中央に写っている灰色のパネルは取水口で、ダムの水位に合わせて変えられるそうです。
去年の台風の時にたまたま八ッ場ダムは完成直後の試験湛水を実施していましたが、その際に山に降った大量の雨水を溜め込んで一気に試験湛水を完了させました。本来はダム堤体に異常が出ないかをモニタリングしながら行うものなので褒められたものかはわかりませんが、ほぼ空だったこともあってかなりの水量をせき止めることができたのは事実です。
そして八ッ場ダム本体にも立ち入ることができます。そばに広い駐車場があり、以前は対岸にプレハブ小屋で建っていた「なるほど!やんば資料館」はダム管理事務所と同じ立派な建物に収まっています。残念ながら閉館中ということで中の展示を見ることは叶いませんでしたが…
立派な建物で期待していただけに残念です。
あいにくの雨ですが天端を歩いてみます。まだ舗装のアスファルトが真新しい。想像していた以上に天端は広いです。
下流側を見下ろしてみます。
八ッ場ダムの堤高は116m、堤頂の長さは291mもあります。洪水調整や上水道の取水の他、併設の八ッ場発電所で発電も行う多目的ダムです。写真の左側にある工事現場が発電所となる場所。
治水の機能は完成しているものの、発電なども含めた完全な姿まではまだしばらくかかりそうです。
ダムのさらに下部にあるコンクリートの部分は「副ダム」とか「減勢工」と呼ばれます。ダムの放水をそのままにすると周辺の砂や岩を削り取ってしまうので、コンクリートの部分で受け止めて水の勢いを弱くするのです。
ダム上部にあるゲートは基本的に非常時に使うもの。八ッ場ダムの場合だと普段は堤体の中を通る常用洪水吐から放水されています。写真にもほとんど見えないぐらい地味です。
ゲートは貯水できる限界が来たときにダムが壊れないよう流入量と同じだけの水を放出する時などに使うので、普段は開けることがありません。点検やイベントの時に限られるので、見られたら相当ラッキーか命の危険があるときです…
八ッ場ダムの下流4kmには国指定の名勝「吾妻峡」が続きます。八ッ場ダムの反対運動にはこの吾妻峡の景観の半分が失われるというのも理由にありました。
鉄道マニアには有名な7.2mしかないトンネル「樽沢トンネル」は水没しないダムの下流にありますが、吾妻線そのものが新線へと切り替えられているので列車で通過することはできません。現在は自転車タイプのトロッコで通り抜けられる「自転車型トロッコ アガッタン」というものが運営されています。
目をこらして見ると吾妻線の廃止になった線路が見えますし、架線柱もそのままなので今にも列車が走ってきそうです。
現在の吾妻線は川の右岸にある山の中を長大なトンネルで通り抜けているので、前述の樽沢トンネルはおろか外を見ることすらできません。近くを走る国道145号線も付替によって左岸をトンネルで抜けているため、吾妻線の旧線を訪れるには下流側にある駐車場にクルマを置いて歩いてくることになります。ちゃんとハイキングコースとなっているようです。
後半はすっかり雨模様になってしまったのがちょっと残念でした。夕方4時を回ったことですし、あいにく我々は明日も労働という悪夢のような現実が待っているので帰路につきます。
幸いなことに帰り道も全く渋滞に捕まることなくスムーズに帰ってこられました。上里SAで休憩を挟んだとはいえ、それでも八ッ場ダムから4時間近くかかりましたが…
普段一人で旅行するときはほぼ公共交通機関しか使いませんが、クルマの機動力に改めて恩恵を受けた旅行でした。道中でお酒を飲むことができないのは自分で運転することの宿命ですけれども。
来年はこのメンバーでもっと遠いところへ遠征してみたいですね。