あさかぜみずほの趣味活動記録簿

旅行記や主に飛行機の写真をひたすら載せ続ける、趣味のブログです。たまに日記らしき投稿もあり…?

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トロッコ列車で黒部の絶景を - 2日目【その2】(2021年6月8日)

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いい時間になってきました。10:44発の欅平ゆきに乗るためにそろそろ駅へ入っておきましょう。
黒部峡谷鉄道宇奈月駅地鉄宇奈月温泉駅から上流方向へ徒歩3分。出ればお互いの駅が見えるのですぐにわかります

 

www.kurotetu.co.jp

 

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先ほど発券してもらった乗車券を見せて構内に入ります。見切れている駅員さんと比べるとわかりますが、線路までの高さがやたらと低く電気機関車も小柄です。

それもそのはず、黒部峡谷鉄道は日本で3カ所しかない762mmの軌間(レール幅)を採用したいわゆる「軽便鉄道」と呼ばれる大きさです。JRなどの普通の線路は1,067mmなので実に30cmも狭く、車両もそれに合わせて小柄に出来ています。

 

 

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窓も壁もないトロッコ客車が7両、その後ろに箱形のリラックス客車が6両連なった堂々たる13両編成ですが、車両の大きさが小さいので編成の長さをあまり感じません
目の前にあるリラックス客車3100形のサイズは長さ7.4m×幅1.7m×高さ2.4mとマイクロバスのようなサイズ感。台車があるので実際に客が乗るスペースの高さは1.8mぐらいといったところでしょうか。身長の小さなあさかぜでも車内に入るときは頭を少しかがめないといけないぐらいです。

 

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3,960円(往復)の運賃に、往路は530円の追加料金を払ってリラックス客車を取ってみました。リクライニングのない合皮張りのシートが並ぶだけの車内ですが、背もたれのない座席に1時間20分座るよりは全然楽ちんです。

行きの経験を踏まえて、帰りはまたリラックス客車にするかオープンスタイルなトロッコ客車にするか考えましょう。

 

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ちなみにロッコ客車はこんなサイズ感。人物にぼかしは入れてありますが、なんとなく大きさはおわかりいただけるかと思います。

 

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ゴゴゴン!と連結器の伸びる衝撃とともにゆっくりと列車が動き始めました。ナローゲージの小さな車体なので地面がすごく近くに見えます。

駅を出てすぐに渡るのは新山彦橋宇奈月ダムの建設に伴って線路を移動して、元々の山彦橋は遊歩道になっています。黒部川の右岸には川に沿って登っていく線路が見えており、カーブや勾配の激しさが伝わってきます。
「山彦」という名前の由来は列車の走る音が谷に響くことからだそうです。

なお車内放送は富山県出身の女優室井滋さんが担当しています。富山県の方言があったり、往復で違う案内があったりと充実した案内放送になっているので、ぜひお聞き逃しなく

 

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ゴリゴリという鉄同士のこすれる音を響かせながら川沿いの崖を登っていきます。

すぐに見えてくるのは宇奈月ダム堤高97m、堤頂長190mの重力式コンクリートダムで、2001年に完成した比較的新しいダムです。堤体の右下部分にわずかに見えているのは「排砂ゲート」といって、ダム湖に溜まった砂を排出するための設備です。
流れの速い黒部川は運ばれてくる土砂の量が多く、そのまませき止めてしまうとどんどん溜まって極端な話、ダムは使えなくなってしまいます。また川の運ぶ土砂は川底を磨いてきれいにする効果があるとされており、下流側では水質が悪くなってしまいます。そのため宇奈月ダムと上流にある出し平ダムで連携して大雨の時を中心に砂を放出する運用が取られています。

なかなか自然が土砂を運ぶようにはうまくいかないようですが…

 

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ダムの後ろに控えるうなづき湖。対岸には温泉施設もあって、ダム湖トロッコ列車を眺めながらお風呂に入れるのだそうです。宇奈月の街からクルマで10分ほどだそうですから、割と訪れやすい場所なのではないでしょうか。

温泉は上流にある黒薙から引いているとのこと。

 

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うなづき湖が終わるぐらいのところに突如現れるコンクリート製の城。これは上流の出し平ダムなどから取水した水を使って発電する新柳河原発電所です。従来の柳河原発電所が宇奈月ダムの建設で水没することから1993年に新たに用意された建物。
観光地の外れにあるラブホテル並みに異物感がありますが…

見ての通り線路が分岐して発電所内へと伸びています。黒部峡谷鉄道がダムや発電所に密接に関わっている姿がわかります。

 

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右へ左へと車体を揺すりながらゆっくりと進みます。数え切れないぐらいトンネルがありますが、どれもこれも中に入るとすごく寒い!9号車にはあさかぜ1人しか乗っていないものの換気のために当然窓が開いているわけで、トンネルに入るたびに冷たい風が容赦なく車内に入ってきます

下に見えている橋は人間用のものではなく、サルのために作られているそうです。ダムの建設で川の左右で生活圏が分断されてしまうのを防ぐために、こうして往来できる橋が作られているのだとか。
人間と違って運動神経が良いので手すりなどというものはありません。

 

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11:09、最初の停車駅である黒薙に止まります。途中にいくつか行き違いするための駅がありますが、観光客が乗り降りできる駅は全体で4駅に限られています。

黒部川支流の黒薙川に沿って歩いて行くと徒歩20分ほどで黒薙温泉旅館に到達できます。河原に設けられた28畳もある広大な露天風呂があり、宿泊はもちろん日帰りでの利用もできるとのこと。案内放送にもありましたが、線路の対岸には下流宇奈月へ温泉を送る送水管が続いています。

 

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駅を出てすぐに黒薙川を渡りますが、上流側を向くとクラシックなコンクリート製の水路橋が見えます。先ほど車内から見た新柳河原発電所への送水に使われている橋で、黒薙川上流の二見堰堤などから送られているようです。

https://www.kepco.co.jp/sp/corporate/pr/2010/__icsFiles/afieldfile/2010/02/23/0226_1j_1.pdf 【PDFファイル】

 

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周辺の山からいくつもの沢が流れ込んでいます。「砂なのか岩なのか、汚い色をしているなぁ」なんて眺めていましたが、よく見てみると溶け出している雪です。もう6月に入って気温もそれなりに高いので雪なんてとっくに溶けているものだと思っていましたが、まだまだ分厚く残っています。
黒部川が年間を通して豊かな水量を持つのも納得ですね。

 

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次に見えてくるのは1985年に完成した出し平ダムです。堤高76.7m、堤頂長は136.0mと先ほどの宇奈月ダムに比べると小ぶり。
日本で初めて砂を排出するための「排砂ゲート」を設けたダムでもあります。1991年に初めて砂を排出した際は6年分のヘドロも一緒に排出されて漁業被害を出すという問題も発生しましたが、それを教訓に現在は増水時に排出してなるべく自然と同じ状況が作られるように努力を重ねているのだとか。
下流側の宇奈月ダムと連携しているのは先に述べたとおり。

 

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出し平駅で行き違い列車の待ち合わせです。ここも関西電力関連の人の乗り降りに限定されており、我々一般人は下車することは出来ません

下流側からコンクリートの壁が線路の横にずっと続いているのですが、実はこの中は通路になっています。雪が深くて走れない冬の間はこの通路の中を関係者や荷物を運ぶ「逓送さん」が徒歩で往来するのです。
なおこの出し平までは宇奈月から9.1kmもあり、しかもずっと急な上り勾配です。重い荷物を背負ってここまで2時間かけて上がってくるというのですから、自分にはとても真似できるものではありません…

 

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出し平を出てすぐに見えてくるのは黒部川第二発電所で、上流にある小屋平ダムに付随する発電所です。やはりここへも鉄道の線路が延びているのが分かります。

ご覧の通り今走っている線路とはかなりの高低差があるので、発電所への線路は少し上流側にある猫又駅から分岐する形で延びています。宇奈月側から見れば一度スイッチバックをして入ります。

 

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第二発電所からの線路が合流してくると猫又駅に到着します。ここでも宇奈月へ向かう列車との行き違い。

機関車には「黒部峡谷鉄道設立50周年記念」ヘッドマークが取り付けられています。
黒部峡谷鉄道は元々関西電力黒部川の各所にあるダムや発電所の建設や維持管理のための人員・物資輸送のために建設した鉄道でした。正式な旅客営業は行っておらず、登山や観光に使う一般客には「命の保証はしない」という但し書きつきできっぷを売っていたといいます。1953年から正式に旅客輸送を開始し、1971年に関電の100%子会社という形で分社化されて現在の黒部峡谷鉄道となりました。

この黒部の美しく雄大な景色を眺めることが出来るのならば、命の保証はしないと言われても乗りたくなる気持ちはよくわかります

 

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基本的には崖の上を走りますが、たまに河原の高さに近いところまで降りてくる区間もあります。1995年の水害では1年間の不通期間が出たそうですが、こうした川面からの余裕がないところが大きな被害を受けたのでしょうね。

 

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11:43、宇奈月からほぼ1時間かかって鐘釣駅に到着しました。さっきの黒薙温泉の辺りと同じように、このすぐ近くでも河原から温泉が湧いているのだとか。石で囲って自分だけの露天風呂を作って楽しめる「河原露天風呂」が有名だそうです。

 

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河原から温泉が湧く一方、川の対岸には夏でも溶けずに残る万年雪が見られます。夏いっぱいかかっても溶けないなんて。よほど大量の雪が降るんですね…

 

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ウド谷という渓流を渡ります。
先ほど黒部峡谷鉄道は雪が深い間は運休する、というようなことを書きましたが、物理的に列車が運行できない区間がまさにここです。冬の時期になると大きな雪崩がこの谷には起きるので、線路が巻き込まれないよう外してトンネルの中へしまってしまいます。そして雪崩がトンネルの中にまで入ってこないように、写真に見える分厚い鉄の扉を閉めるのです。

 

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鐘釣駅からは進行方向左側に景観が移ります。
小屋平駅はやはりダム関係者専用の駅で、我々は行き違いの間でも降りることは出来ません。奥に見えているのは小屋平ダムで、堤高54.5m、堤頂長73.7mの1936年から活躍するベテランです。

下流の2ダムに排砂ゲートが設けられていることから分かるとおり、黒部川が削り取る土砂の量はかなり多くなっています。当時はそれがわからなかったので仕方がありませんが、小屋平ダムでは削り出された土砂が溜まる「堆砂(たいさ、たいしゃ)」という現象が進んでおり、2000年の調査ではすでに容量の90%が溜まっているとされています。
なお勘違いしてはいけませんが、ダム全体の9割を砂が占めているのではなく、水とは別に砂を貯めておける容量がダムには設定されています。その堆砂容量の9割を使っているという意味なので、ダムが使い物にならなくなっているということでは決してありません。

 

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他のダムなどと同様に線路がダム付近まで伸びています。かなり広いコンクリ打ちのスペースになっていますが、実はこの下には人工の池が隠れているのだそう。何度も書いているように黒部川は削り取る土砂が多く、そのまま送水すると発電所に砂が流れ込んでしまいます。そこでダムから取水した水はこの人工の池で砂を沈殿させているわけです。

 

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欅平のすぐ手前に見えたのは黒部川第三発電所です。一般の観光客が目にすることのできない仙人谷ダムからの送水で発電します。
その仙人谷ダムは太平洋戦争直前の1940年に完成したダムで、軍需物資を製造する電力を確保するため突貫工事で作り上げられたものでした。当時の平均賃金の10倍が支払われたといいますが、一歩踏み外せば谷底に落ちて命を失うような危険な現場。建設現場までのトンネル工事は130度にもなる超高温の岩盤に阻まれ、ダイナマイトが自然発火するような状況。長い冬の間に雪崩に襲われて宿舎の一部が作業員もろとも谷底へ押し流される、など想像を絶する過酷な現場だったそうです。あまりに過酷すぎて精神に異常をきたし、雪山へそのまま失踪する人もいたとか…

仙人谷ダム黒部川第三発電所の建設で述べ300人以上の方が犠牲になりました。いくら戦争直前で作業安全や人命が軽く見られていたとはいえ凄惨な話です。とにかく進めろというお国の方針に従った、ある意味戦争の犠牲者でもあります。

 

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宇奈月から20kmの道のりを1時間20分かけて終点の欅平に到着しました。実は線路はこの先トロッコ専用のエレベーターを介して仙人谷ダム黒部川第四発電所へとつながる「関西電力 黒部専用鉄道」へと続いていますが、現状では専用ツアーの参加者のみが入れる特別な場所。
先述の通り2024年には黒部ダムへ向かう新たな観光ルートとして一般開放される方針なので、そのときを楽しみに待ちましょう。

 

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機関車は機回し線を通って反対側の先頭へ。車体が小さいのでヘッドライトがギョロ目のように大きく見えますね。

 

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ホームの宇奈月側ではゴミ運搬用の貨車をつなげた列車が発車を待っていました。あとで調べたら4両しかいない貨車だったようで、珍しいものを見られました。

 

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欅平駅の標高は599mとそこまで標高が高くないからか、気温も20度以上あってかなり暖かいです。水道の水はすさまじく冷たかったですが…

 

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散策へ出る前に腹ごしらえをしておきましょう。
欅平駅の2階のレストラン白海老かき揚げうどんを注文。シロエビは富山湾で穫れるエビで、淡いピンク色の見た目から「富山湾の宝石」と呼ばれるのだそう。
主食のうどんは「氷見うどんで、コシの強さとのど越しが特徴なんだとか。あまりコシは感じませんでしたが、コシが強すぎるうどんは噛む方に意識がいってしまってあまり好きではないので、むしろ柔らかい方が個人的には好みです。博多うどんとか。

 

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レストランからも黒部峡谷の深い谷間がよく見えます。

 

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