駅まで戻ってくると、15:40発の観光特急「しまかぜ」名古屋ゆきに充当されるらしい50000系が待っていました。早くもデビューから10年が経ちますが、未だに満席状態が続く人気の列車です。あさかぜも乗りたかったのですが1週間前では「おひとり様」向けの座席は全て埋まっていました。
「しまかぜ」にはカフェ車両が連結されていて、オリジナルの食事やドリンクを景色を眺めながら楽しむことができます。いかにも「しまかぜ」らしいラインアップになっていて、人気が衰えないのも納得です。
というわけで「しまかぜ」には乗れないので、13時ちょうど発の伊勢志摩ライナーで賢島をあとにします。同じルートを戻るのもアレですし、帰りは大阪難波へ。
2012年のリニューアルにより23000系は3編成ずつ2種類のカラーリングが導入されました。
先ほど乗っていたのは日差しをイメージしたサンシャインイエロー。今から乗るのは太陽そのものをイメージしたサンシャインレッドで、赤というよりは濃いめのピンク色という感じです。
デラックスカーの車内はカーペットが敷き詰められ、大型の座席が並びます。
通常の特急料金に420円を追加すればJRのグリーン車のような座席に座ることができるので、選ばない手はありません。両先頭車はモーターがないので走行音を楽しむことはできませんが、そんなことを考えるのはあさかぜのような物好きぐらい。むしろ「静かな車両だから快適」と考えるのが普通です。
コンセントは各座席に用意がありました。
座席の心地よさとと日差しの暖かさでついつい寝落ちしてしまい、早くも気がつけば1時間近くが経過していました。
伊勢中川で朝通ったルートから離れ、京都・大阪方面へと進んでいきます。
運賃の計算上は伊勢中川を“通過”していく名阪特急ですが、実際は駅の北側にある短絡線を抜けていきます。この短絡線ができたのは1961年、名古屋~大阪間を結ぶ名阪特急のサービス向上のためでした。
短絡線ができる以前は伊勢中川で方向転換をするために座席の向きも変える手間がありましたが、この短絡線の完成によってその必要がなくなりサービスが向上しました。
当初は「名阪甲特急」と呼ばれる速達タイプのみが短絡線を通り抜けていましたが、1963年からは乙特急も含めた全ての特急列車が短絡線を経由しています。
なお甲特急がノンストップで運転されていた時代は、この短絡線を通過している最中に運転士が交代するという光景が見られました。甲特急の名物のようなシーンでしたが、いくら低速でブレーキに手をかけているとはいえ走行中に交代するのはどうなのという話もあり、甲特急が全て津に停車するようになったのを機になくなりました。
再び快適さに負けて寝落ちすること約1時間ちょっと、気がつけば大阪市内まで出てきていました。
15:37、終点の大阪難波に到着。所要約2時間半のうち大半を眠って過ごしていたことになります。せっかく乗りに来たのにもったいない…
まぁそれでこそデラックス座席の本領といえるのかもしれませんけども。
いくら車内で爆睡していたとはいえお腹は空きます。
難波へ来ると毎度のように来ているのが金龍ラーメン。「ミナミ」エリアに数店舗を構えるセルフサービスの豚骨ラーメン専門店です。
レビューを見ていると味は賛否両論ですし、実際わざわざ大阪まで来ているのならば他にもたくさんおいしいものはあります。でもどうしてもクセのあるラーメンを食べたい時ってありますし、あまり食事に時間をかけたくない性格が輪をかけて、ついついここへ足が向いてしまうのです。
以前訪れたときは店員のお兄さんにライスとトッピングを出してもらいましたが、今日はコロナ禍以前のように自分で食べたい量を取るセルフサービスに戻っていました。
スープの味にライスが抜群にキマるし、トッピングの辛いニラとニンニクも、またご飯をスイスイ進ませる大事な要素。「体に悪いからやめろ」と親には再三言われるものの、やはりおいしいものをやめることなんていまさらできません。
もう法律で禁止されない限り止めることなんか無理でしょう。
さて、名古屋に戻らずわざわざ大阪へやって来たのには理由があります。御堂筋線で梅田まで出てきて、あっちこっち看板を見ながらなんとかたどり着いたのが「大阪駅 うめきた地下口」、先週開業したばかりの真新しい駅です。
元々この上にはJR西日本の梅田駅がありました。駅といっても旅客が乗り降りするための駅ではなく、貨物列車が発着する貨物駅です。大阪の都心部に17haもある平たい土地に目をつけられないはずがなく、1999年に近くの吹田と百済の両貨物駅へ機能を移転する再開発計画が本決定します。
移転が完了した2013年3月のダイヤ改正をもって梅田貨物駅は廃止となり、再開発がスタートしました。
写真は2015年10月末に撮影した地上部の光景です。写真の右端がJR大阪駅、奥の方へ進んでいくと東海道線の新大阪方面へ線路がつながっています。
実は梅田貨物駅は東海道線~大阪環状線を結ぶ短絡ルートでもあり、安治川口駅を発着する貨物列車の他、和歌山県へ向かう特急「くろしお」や関空特急「はるか」が往来する重要な抜け道でした。
それゆえこの抜け道は何とかして残す必要があり、「貨物駅を廃止して更地にしました。ビル建ててください、はいどうぞ」というわけにはいかなかったのです。
加えてこの短絡ルートは貨物駅の片隅を通り抜けていたので、大阪駅のすぐ裏側にありながら乗降用のホームがありませんでした。そのため大阪駅から「くろしお」や「はるか」を利用しようとすると、天王寺や西九条、新大阪までわざわざ移動しなければなりません。
再開発にあたってこのルートを地下化し、さらに旅客用のホームを設けて利便性を向上しようということに。2015年から工事に着手、2020年に正式に大阪駅の一部となることが決定し、つい先週の2023年3月18日に「大阪駅(うめきたエリア)」として開業を迎えました。
大阪環状線などとは改札内の通路でつながっていて、大阪駅の21~24番線として扱われています。
将来的に都市公園や高層マンションが整備される近未来的な街になることから、駅にも新機軸が盛り込まれました。
そのうちの1つ、改札口にそびえる門型の改札機です。なんと顔認証ができるようになっており、登録している人はICカードをいちいちかざさなくても“顔パス”で通れるというもの。
といっても現状ではJR西日本の社員以外は大阪~新大阪間の定期券を所持している人ぐらいしか使えないので、かなり限定的な試みではあります。ICカードのタッチ部もあって普段通りICカードをかざして通ることもできますので、雰囲気だけ味わいたい人も利用可能。
そして注目を集めているのは21番線ホームに設置されたスクリーン式のホームドアです。
一見すると新線区間に設置されている大型のホームドアのようですが、実はサイネージのついた部分まで含めた全ての部分が動くという最新の技術をつぎ込んだもの。
通常のホームドアには可動部と戸袋を兼ねた固定部があり、各鉄道事業者は所有する車両が可動範囲に対応できるよう様々な努力を重ねています。
当のJR西日本も片側3ドアと4ドアの車両が混在して走っている路線も多く、ロープが昇降するタイプのホーム柵を開発するなどしてなんとかホーム上の安全を守るべく努力してきました。
現在の21番線は「くろしお」と「はるか」しか発着していませんが、両列車に使われる車両もやはりドアの位置や幅が微妙に異なります。さらに2031年度の開業を目指す「なにわ筋線」が開業すると、JR西日本に加えて南海電鉄が、もしかすると阪急電鉄も同じ線路を走るようになります。
そうなると3社それぞれの規格の車両が往来するようになり、どこかに固定部があると乗り降りできないドアが出てくる可能性があるわけです。
そうした不自由を解消するため、「全ての部分が可動部でどんな車体長やドア位置にも対応できる」という万能なホームドアの開発が求められたという背景があります。
JR西日本グループと自動ドア最大手のナブテスコが手を組んで開発したのが、開口部が移動できるこのホームドア。可動部が多い上に各形式のドア位置に合わせて緻密な制御が必要になってきますから、導入コストは普通のホームドアよりもかなり高額だろうと想像できます。
今のところは大阪駅の21番線のみに設置されているだけ。将来的に広く普及する日が来るのはまだしばらく先になりそうですね。
しかし現役の駅員として気になるのはトラブルが発生した場合の対処です…
普及しているタイプのホームドアであれば、最悪の場合は電源を切って手動で開けることができますし、逆に閉まらない場合は開いたままの固定状態にしておきます。
いずれにせよ復旧するまで壊れたドアの横に立ち続けなければいけないので非常に面倒なのですが、まだ手で動かせるだけマシ。
このサイズのホームドア、しかもサイネージがついている部分はかなり重そうです…しかもドアの位置が違う車両が来るのですから、どこかに固定しておくというわけにもいかないでしょうし。
いくら日々のメンテナンスをしっかりしていても、これだけいろいろな箇所が動くとなれば突発的に故障することは普通のホームドアより可能性が高いはず。
普段の業務でもイヤなのに、この最新技術の塊がトラブったときのことを想像するとなんだか胃が痛くなってきました。考えるのはやめておきましょう。
ちなみにこのサイネージ部分まで含めたホームドアの動作映像はYouTubeにたくさん掲載されています。自分でも撮影しましたが、周囲に人が映りまくっていて編集が面倒なのでYouTubeの検索結果にリンクを張っておきます。
うめきたエリアの開業に伴っておおさか東線の普通・快速列車がここに発着するようになり、使用車両も世代の新しい221系に統一。最近になってリニューアルされたとはいえ221系も1989年デビューの大ベテランなんですけどね…
というわけで「うめきたエリア」の見物はこれにておしまいにして、おおさか東線で新大阪に出て新幹線で帰ります。駆け足の2日間でしたが目的は果たせたので満足出来ました。