すっかり寝落ちしていると、窓をたたく「バチバチバチ!」という響くような水音で目が覚めました。外を見ると尋常ではない雨の降り方をしています。
この激しい雨は北部九州の広い範囲に影響を与えているようで、西鉄太宰府線は運転見合わせという状況にまでなっています。先行きが不安になってきました…
長崎市内に入っても雨脚はほとんど弱まらず、市内の川は濁流となってすさまじい速さで流れています。道路も冠水している場所だらけで、ジャブジャブとタイヤが水をかき分ける音が車内に聞こえてくるほど。
歩行者に水をかけないようにバスは慎重に進んでいきますが、もはやこの状況ではどうしようもありません…
14:40頃、若干の遅れで長崎駅前に到着。目の前にあるバスセンターの建物に駆け込むまでのわずか30秒で全身びしょ濡れになってしまいました。まるで滝に打たれたかのような濡れ方で、下着も靴もビタビタ…
この降り方ではもはや傘など役に立ちません。少し弱まったタイミングを見計らって、なんとか長崎駅構内へと移動します。
昨日の写真をご覧いただければわかると思いますが、まだこの時は駅舎から濡れずにアミュプラザ新館へ行けるルートが構築されておらず、靴やズボンを買いに行ったところでまた濡れるのが目に見えています。
とりあえずトイレで濡れていないポロシャツに着替え、タオルで頭を拭いて済ませるしかありません。それに時間も限られていますから、まずはお昼ご飯を食べなければ。
というわけで駅構内の「アミュプラザ かもめ市場」へ。
長崎へ来たからには名物を押さえておきたいので、「ちゃんぽん蘇州林」で皿うどん(1,100円)を注文。細麺か太麺かが選べ、あさかぜはオススメらしい細麺を選んでみました。
ちなみにあとで調べたら細麺は油で揚げたパリパリの麺、太麺は柔らかいゆで麺になっているとのこと。てっきり両方とも揚げ麺なのかと思っていました。
海鮮のダシが染みたあんかけに、パリパリした揚げ麺の歯触りが食欲を増進します。揚げ麺って噛んでいるとどんどん味が染み出してきて不思議ですよね。
食卓に添えられたラー油や酢などの調味料類を足しながら風味の変化も楽んでいると、あっという間に食べ終わってしまいました。
甘いものも食べたかったので、ごま団子(440円)も一緒に注文しておきました。あさかぜは唐突にごま団子を食べたくなる時があるのですが、ドーナツやまんじゅうのような他の甘味に比べると入手しづらいのが…
昨夜の高速バス「九州号」の乗り比べ相手になる西九州新幹線+リレー特急へ乗るべく、新幹線のホームへ上がってきました。ホームの先端からは長崎湾を望むことができ、いかにも長崎らしい空気を味わえます。ちなみにホームから海が見える新幹線の駅は長崎だけだそう。
先端部の柵には、長崎駅が新幹線の駅として最西端にあることを誇る金属製の銘板が取り付けられています。
近頃の流行りなのか、長崎駅の新幹線ホームもドーム型の開放感ある天井になっています。終着駅にふさわしく2面4線の立派な規模ですが、武雄温泉までしか走らない現状では4線全てを使うことはないそうです。
その立派なホームに、折り返し「かもめ40号」となる列車が滑り込んできました。
「N700S系8000番台」という形式からわかる通り、ベースとなっている車両は東海道・山陽新幹線で運行されているN700S系車両。6両編成5本が用意され、自由席と指定席がそれぞれ3両ずつ。自由席は新幹線標準の3+2の5席配置、指定席は2+2のゆったりとした4席配置となっており、グリーン車はありません。
例によって水戸岡鋭治氏がデザインを監修しており、車両下部はコーポレートカラーの赤に、そして窓やヘッドライト回りにも装飾が入ることで、東海道・山陽新幹線のN700S系とはガラリと印象が変わりました。
随所にロゴがあしらわれるのも水戸岡デザインの特徴で、車体には列車名の「かもめ」をかたどった文字やマークがちりばめられています。
ただの遮音板として見向きもされないパンタカバーにまで目をつけるとは、さすがデザイナー。
運行上は武雄温泉で「リレーかもめ」「みどり」への乗り換えが必須ですが、接続列車があるので「博多ゆき」として案内されます。これは九州新幹線鹿児島ルートが新八代~鹿児島中央間で先行開業したときに使ったのと同じやり口ですね。
2+2の4席配置の指定席は、東海道新幹線や東北新幹線ならグリーン車並みの好待遇です。座席は九州新幹線800系と同じものと思われ、クッションが利いた座り心地は上々です。
…たった30分しか乗らないのがもったいないぐらいに。
2023年6月現在、西九州新幹線は営業キロ69.6キロ、実キロにして66kmと群を抜いて短い新幹線です。諫早・新大村・嬉野温泉の全ての駅に止まる列車でも所要時間は30分程度。
そして武雄温泉から東側、佐賀や博多へ向かおうとすると乗り換えが必須という大きなデメリットを抱えています。しかも鹿児島ルートと違い、この乗り換えは解消する見込みがないのが実情です。
その理由は、佐賀県が武雄温泉以東の建設に強硬に反対しているからです。
…という書き方をすると、何やら佐賀県のワガママで新幹線の建設が止まっているかのような印象を与えますが、佐賀県の反対はスジの通ったものであり、それだけに容易に解決するものではありません。
長くなるので興味のない方は写真2枚分読み飛ばしてください。
現在でも佐賀市から博多までは在来線の特急で40分弱で着けます。新幹線ができると25分程度に縮まるとされていますが、逆に言えば得られるのは10分ちょっとの短縮効果だけ。
新幹線は駅数も減るので、在来線特急が止まる駅の利用者は新幹線の駅まで出て行って乗り換えが必要になるかもしれません。「乗り換えの時間と手間が増えて、さらに特急料金まで上がる」と、不利益の方が大きくなるわけです。
そういった背景があり、武雄温泉から東側は新幹線の計画そのものが元からありません。
当初の計画では、武雄温泉~長崎間は新幹線規格の線路を在来線の特急が高速で走り抜け(「スーパー特急」方式)、武雄温泉以東は今ある在来線を経由することになっていました。
しかし福岡から離れた長崎県からしてみればスーパー特急では時短効果が薄いので、必然的に通常の新幹線と同じ線路幅で高速運転が可能な「フル規格」を求めるようになります。そこで佐賀県内は在来線(1,067mm)、長崎県内は新幹線(1,435mm)という相反する規格を通り抜けられるよう、「フリーゲージトレイン」という線路幅を切り替えられる車両の開発がスタートしました。
ところが開発は困難を極め、なかなかうまく進みません。しかもJR西日本からは「構造上重たいフリーゲージトレインが乗り入れると、線路の保守費用が増えてしまう。勘弁してくれ」と、山陽新幹線への直通運転をお断りされる事態に…
結局、技術的な難題をクリアできず、2017年に西九州新幹線へのフリーゲージトレイン導入を断念。先に武雄温泉~長崎間をフル規格で着工してしまった以上「武雄温泉~新鳥栖間もフル規格で建設して九州新幹線鹿児島ルートと接続しよう」という方針に転換しました。
ここで問題になってくるのが建設費用の負担です。
現在の整備新幹線のスキームでは、建設費用の1/3は地元自治体が負担することになっています。つまり佐賀県は計画さえなかったフル規格の新幹線を建設するために660億円を負担してくれ、といきなり言われたわけで、当然同意できるものではありません。
しかも建設費は年々上がっており、最終的な負担は1,000億円を超えると佐賀県は試算しています。それを県民の税金から出せというのですから、なおさらウンというわけにはいかないのです。
佐賀県の名誉のために書いておきますが、武雄温泉から西側の(わずかとはいえ)県内の部分は、佐賀県は建設費用を負担しています。また並行する長崎本線の区間は長崎県と共同で施設を保有する「上下分離方式」を取って、JR九州の負担の軽減にも協力しています。
これは整備新幹線の当初の計画には佐賀県も同意していたからです。
費用負担のみならず、新幹線開通後の在来線のあり方といった県民にとって明確なメリットが提示されない限り、佐賀県が反対し続けるのは必然。「整備新幹線」というスキームそのものを見直す必要があるのかもしれません。
なおあさかぜが参考としたニュース記事2件は内容に若干の違いはあれど、同じライターが書いたものです。見ようによっては偏っていると言わざるを得ないので、関心のある方はおのおの調べてみてください。
話が長くなってしまいました。旅行記へと戻りましょう。
ついついおいしいものを食べるとお酒が飲みたくなってしまいますし、移動する列車の中で飲むとまたひと味違う気がします。
ですが、1本飲み終えて気分が良くなり「あー、そろそろ眠くなってきたな」と思ったところで武雄温泉に到着、乗り換えを余儀なくされるわけです。気分に水を差されるというか、眠い中でのおっくうさというか、とにかく荷物を抱えて乗り換えるという行為が非常に煩わしく感じられます。
乗り継いだ「リレーかもめ」は武雄温泉始発のはずなのに席はほとんど埋まっていて、せっかく大好きな787系に乗っているのに縮こまって座っているしかありません。
西九州新幹線の問題を解説したYouTube動画のコメント欄には、新幹線ができて「かもめ」が分離されてしまったせいで、今度は佐世保発着の「みどり」の座席が取りづらくなったという不満も投稿されていました。
それに「かもめ」から「リレーかもめ」へ乗り継いでも座席が対応しているわけではありませんから、席の空き方によっては3分の乗り換え時間で何両分も車両を移動しなければなりません。
西九州新幹線が全通しないことのデメリットが明確に存在するのも、これまた事実…
武雄温泉から1時間ほど、激しい雨が降り続ける中を走り抜けて終点の博多に到着しました。乗り換えを挟むとはいえ、長崎からの所要時間は1時間40分程度と昨日乗った高速バス「九州号」に比べると30分以上早く着きます。
ちなみに割引きっぷのおかげで、今回支払ったのは正規運賃+料金の6,050円に対して4,400円で済みました。バスとの差30分1,500円を高いと見るか安いと見るかは個人の価値観によりますが、面倒な乗り換えをせずに寝て過ごせる利点を考えるとあさかぜは「九州号」を選ぶかもしれません。
福岡市まで戻って来たらあとは飛行機に乗って帰るだけ…と思っていましたが、もう1つ寄るべき店があることを思い出しました。
とんこつラーメンに埋もれがちな博多の名物といえばうどん。あさかぜはコシが強い讃岐うどんよりも柔らかい博多うどんの方が好きなのですが、その博多うどんの中でもさらに独自のキャラ性を持つのが「牧のうどん」です。
福岡県内を中心に展開するチェーンのうどん店ですが、ほとんどのお店は駅から離れたロードサイドに位置するところばかり。2016年3月、ありがたいことに博多バスターミナルの地下1階に「復活」。7年経ってようやく訪問の機会が巡ってきました。
ごぼう天うどん(520円)の食券を買って店員さんに渡すと麺の硬さを聞かれるので「やわめ」を選択。ツウはやわめを選ぶ、なんてのを何かで読んだことがあります。
灼熱のやわめうどんと一緒に出てくるのは、ヤカンに入ったアツアツのダシ。牧のうどんで提供されるうどんは食べているうちにどんどんつゆを吸っていくので、それを補うためです。
元から入っているのとは違うもっと濃い炒り子だしの味がして、つゆの雰囲気が少し変わります。ただし味もかなり濃いめなので、入れすぎには注意しましょう。
しかし「牧のうどん」が博多BTにあるのは最高ですね。福岡に来るたびに立ち寄ることになりそうです。
さすがにもうお腹いっぱい…
福岡空港に着いたらラーメンには目もくれず、一目散に保安検査場を通り抜けてサクララウンジへと駆け込みます。ついでに座席もClass Jへとアップグレードしておきました。
あとは時間までビールを飲みつつラウンジで待つのみ。
着ている服はおおよそ乾いたものの、靴と靴下だけはビタビタのままです。歩くたびに水が動くような感触が伝わってきてひどく不快ですが、もうここまで来たら家に帰るまで耐えるしか…
20:05発の羽田ゆきは早くも19:40頃に優先搭乗が始まり、最終的に定刻よりも5分近く早い出発に。
昨日、日本航空から入っていたメールには「JL330便は現在大変多くのご予約を頂戴しております」という一文が入っていたものの、実際に乗ってみると早発するほどの乗客しかいませんでした。
この天気の悪さで行程を変更する人たちが続出したのでしょうか?
どうあれ乗る側としては人がひしめいているよりは空いている方がいいですし、Class Jにいたっては半分も乗っているかどうかという程度なので周りに気を遣わなくて済むのはありがたいこと。
帰りの搭乗機はJA13XJ、2021年11月に就航した機体。
ただでさえ静かなA350なのに、Class Jはエンジンより前側に席があるのでなおさら静かで快適、よく眠れます。
静かなだけに主翼前縁のドループノーズの動作音だけがやけに響きますが、目覚ましと思えば…
さて、今回の旅でようやく全国47都道府県にちゃんと足を踏み入れることができました。
じゃあこれで国内旅行はおしまいか、といえばそんなことはありません。日本にはまだ行ってないところ、また行ってみたいところが数え切れないぐらい残っているので、旅行の欲はとどまるところを知らないのです。
ただし今は早く家に帰ってこの靴と靴下を脱ぎ捨てたい!次の旅行について考えるのはまた今度です。