ホテルのそばにあった「上赤江住宅前」というバス停から富山地鉄のバスに乗って富山駅まで出てきました。バスも路面電車もこの時はまだ交通系ICカードの共通利用が始まっておらず手持ちのSuicaが使えなかったため、久しぶりに現金でバス運賃を支払います。
それにしてもバスのデザインが一昔前の都営バスにそっくりですね。両事業者の間で特に関係はないようですが、偶然にしては良くできすぎています。
駅の一角にある「立山そば」で朝ご飯にしましょう。やまかけ月見そば490円。
冷たいそばでもいい季節ですが、経験上温かいものを食べておいた方が1日調子よく過ごせる気がします。冷たいものの食べ過ぎによる腹痛は本当につらいですから…
朝はなんだかんだ忙しくてついつい水分補給がおろそかになりがちですから、とろろと玉子の溶け込んだつゆまでおいしくいただきます。塩分どうのこうのという話もありますが、寝汗もかいているでしょうし、水分を摂らないよりはマシでしょう。
JRの駅前に建つ立派なビルは富山地方鉄道の電鉄富山駅。朝の通勤通学時間帯なので電車が着くと大勢の人が駅から出てきます。東京郊外の朝ラッシュと光景は変わりません。
駅の窓口で「鉄道線・市内電車2日フリーきっぷ」を購入してきました。2日券は4,600円、1日券は2,600円で、特急列車の自由席料金まで含まれるので何度も地鉄に乗る人にはオススメです。
特に今日乗車する富山~宇奈月温泉間は片道運賃で1,880円かかりますから、1日券なら往復するだけで元が取れます。
8:04発の宇奈月温泉ゆきは地鉄生え抜きの14760形電車です。
去年のアルペンルート旅行記でも触れましたが、富山地鉄の形式の付け方は頭の3ケタがモーターの馬力、お尻の2ケタが型式番号を表すという独特のやり方です。なのでこの車両は本当なら60形とでも言うべきなのでしょうか?
…と思いましたが、地鉄公式ページの「車両のご紹介」ではモハ14760形と紹介されているので、5ケタ表記でいいようです。
高校生を中心に郊外方向に向かう人もそこそこおり、概ね半分以上の席が埋まった状態で富山駅を出発しました。
今渡っているのは常願寺川。この川をひたすらさかのぼっていくと立山黒部アルペンルートの富山県側入口へと到達します。富山から20分ほどの寺田駅で分かれる立山線がひたすら常願寺川に沿って進んでいきます。
富山から30分で上市に到着しました。2面3線を備えた立派なターミナル駅で、具体的な時期はわかりませんが駅ビルに併設してボウリング場まであったようです。
行き止まり式の駅なので全ての列車が停車してここで方向を変えます。
奥に停車しているのは同じ14760形です。一応向こうの方が新塗装だそうで、あさかぜが乗っている車両は旧塗装なのだそうです。だからといって塗り替えられる気配は全くないんですけどね。
上市の市街地をぐるりと回り込むようにして、再び北東の方向へ進んでいきます。残念ながら晴れてはいないので遠くの立山連峰は雲に隠れてしまっていますが、これはこれで奥の見えないダンジョンっぽさがあります。
車内には転換クロスシートがずらりと並びます。座席が固定されたボックスシートではないのでなんとなく贅沢な感じ。地鉄には料金を必要とする特急列車も運行されているので、遜色ないようにしているのでしょう。…たまにロングシート車が特急運用に入るようですが。
それにしても車内はガラガラで2両合わせても10人ぐらいしか乗っていません。
新魚津に到着しました。行き違いのためしばらく停車するようです。奥に見えるのはあいの風とやま鉄道の魚津駅で、地鉄は南側にある市街地に電鉄魚津駅を構えているので駅名に新をつけて区別しています。
ちなみにあいの風とやま鉄道では富山~魚津間を20分ちょっとで走り抜けてきますが、地鉄は内陸側を細かく停車してくるので1時間かかっています。
JR北陸本線が移管されたときに駅名標は全て第三セクター鉄道のデザインに改められていますが、ホームの端の方にはJR西日本時代のものが残ったままになっていました。現在ではこの端の部分までは使わないから直さなくていいや、ということなのでしょう。
先ほどの電鉄魚津とここ新魚津でほとんどの人が降りてしまい、後ろの車両には人の気配がありません。前には2人ぐらい乗っているのかな…?
新魚津から10分、電鉄黒部に到着です。あいの風とやま鉄道の黒部からは1kmほど離れておりバスでアクセスできるようになっていますが、1969年までは国鉄黒部駅まで支線が伸びていました。3つあるホームはその名残だそう。市役所や病院に近いのは電鉄黒部ですが乗客数は黒部の方が多いようです。
現在は一番外側の線路は臨時列車用となっており、定期列車は今この列車が停まっているのと真ん中の線路の2つだけでやりくりしています。
3つ隣の新黒部は北陸新幹線の黒部宇奈月温泉との乗換駅として機能させるため2015年に開業しました。やはりここもJRとは駅名が異なりますが、地鉄には宇奈月温泉という駅が元からあるわけで、新幹線の駅名に合わせるとややこしくなってしまうので仕方がありません。
新幹線が来るということで県は大々的に駅前の再開発を計画していましたが、なんだかんだ運営事業者が入ったのは地鉄側のみで、新幹線の裏側に広々と整備される予定だったエリアの公募には応募がなかったとか。
まぁ1日平均の乗降客数が新幹線と地鉄を足しても1,200人ほどですから、大きく作ったところで集客が見込めませんからね…
文字通り宇奈月温泉への玄関口の駅ですが、予想に反して誰一人として乗ってくることがなく列車は閑散としたまま新黒部を後にします。
新黒部を出ると一気に山の中へ。たまに見える黒部川の水面が下へ下へと離れていきます。
いま発車したのは内山駅です。かなり渋い見た目をしていますが、2019年度の1日利用客数は178人と悪い数字ではありません。1923年に地鉄の前身である黒部鉄道が作った駅ですから、もう100年もの歴史を持つことになります。駅舎も開業当初からそのままなのでしょうか。
始発の電鉄富山から2時間近くかけて9:53、終点の宇奈月温泉に到着しました。ちなみに北陸新幹線で黒部宇奈月温泉までワープしてくれば、富山を出るのは8:48で済みます。新幹線の速いこと。
2両編成の電車から降りたのはたったの3人。新魚津からそのままだったということでしょうか…
3人の中で最後に改札を出たのですが、あさかぜの前を歩いていたお姉さんが脇目も振らず一目散に駅のすぐ横にあるケーキ屋さんへ入っていきました。そんなに有名なお店なのでしょうか?
駅舎のメインの階段の下にたたずむ「ALPEN CHEESECAKE」というお店。ガラガラだった電車とは対照的に何人ものお客さんが店の内外にいます。
外から覗いてみるとカフェスペース限定で「幻のアルペンチーズケーキ」とポップが出ています。「賞味期限10分」…?しかも1日個数限定と書かれてしまうと日本人の性でどうにも気になってしまいます。
まだ1時間ぐらい余裕があることですし、せっかくですからその幻のケーキをいただくことにします。
ホットコーヒーもセットにして860円。チーズケーキ単品では660円です。
キンキンに冷えたガラスの器に入って出てきたのは5cm角ぐらいのピラミッド型のチーズケーキ。ケチケチした性格をしているので「思ったより小さいな」という気はしなくもありません。スコップ型のスプーンがオシャレです。
添えられたベリーのソースをかけていただくようです。
ケーキというのでてっきりスポンジが入っているのかと思い込んでいましたが、レアチーズケーキのチーズ部分だけで全体ができあがっています。口にふくむと甘くて濃厚なチーズが口の中で溶けていってもったいないぐらい…!
もっとオシャレに味わって食べればいいものを、ついつい欲張ってあっという間になくなってしまいました。高級品だったのに…
ちなみに後日友人(女性)にこのケーキを「お高いケーキだった」と話したところ、
「限定のケーキなんてそんなもんだろ。日々安いケーキばっかり食べてるからそうやって思うんじゃない?ちゃんとしたケーキ食べなよ」
とケチさを叱られました。
お店では全国配送も行っているようで、近くのテーブルでは配送を申し込んでいる家族の姿もありました。人気なんですね。
さて、まだしばらく時間があります。黒部峡谷鉄道の窓口で乗車券の発行を受けてから、向かいにある「黒部川電気記念館」に入ってみましょう。
建物の前に飾られているのはEB5号型。1926年から1984年まで使われていた電気機関車で、黒部峡谷鉄道の人員・資材輸送を支えた功労車です。
それでは中に入ってみましょう。
狭い谷間を豊富な水量で流れる黒部川は水力発電所の設置にもってこいの条件でした。
下流側から宇奈月ダム(宇奈月発電所 2万kW)、出し平ダム(出し平 520kW、音沢 12万4千kW、新柳河原 4万1千kW)、小屋平ダム(黒部川第二 7万2千kW)、仙人谷ダム(黒部川第三 8万1千kW)、黒部ダム(黒部川第四 33万5千kW)と発電量の大きなダムが5つも並びます。これらのうち黒部峡谷鉄道の車窓に見られるのは3つめの小屋平ダムまでで、最上流の黒部ダムは昨年9月に通ったアルペンルートで見られます。仙人谷ダムは本格的な登山者のみが見られるようです。
ダムも他のインフラと同じように建設したらおしまいというわけにはいきません。観光客が入らない真冬の間でも我々の生活を守るために絶え間ない保守が行われています。インフラ事業というのは生半可な仕事ではとても成り立たないのです。乱立する太陽光発電事業者はそういったことを肝に銘じて欲しいものですが。
水力発電は水の流れる力を使って水車を回して発電します。一口に水車といっても様々な種類があり、ここの資料館では主に使われる4種類の水車の動く模型が展示されています。
これ結構夏休みの自由研究とかにしても面白そうな内容だと思いますね。小学生の頃にあさかぜが見ていたらネタにしていた気がします。
手前がペルトン水車。
横向きに並んだお椀のようなバケットに横向きのノズルから水を噴射して発電機を回します。200m以上の大きな落差があるような発電所に使われます。
2つめはフランシス水車。
最もメジャーな形式だそうで、左右のケーシングという筒を流れる水の圧力で中央の羽根を回転させます。
3つめのカプラン水車は基本的な仕組みはフランシス水車と同じ。
取り付けられた羽根の角度を変えることで水の圧力が変わっても効率的に回転できることが特長。5~80m程度の小さめの落差に適した形式とされています。
向こうの端はターゴインパルス水車。ターゴ水車とだけいうこともあるようです。
ペルトン水車と同様にノズルで水を吹き付けて回転させる仕組みですが、複数のノズルがつくペルトン水車に対してターゴ水車は1つだけ。その分倍ぐらいの速さで回転させて発電力を稼ぎます。落差の小さな場所でも使えることが特長。
日本最大出力の黒部ダムの落差は545mもあります。黒部ダムで取った水はひたすら山の中をトンネルで抜け、発電所の手前で一気に落とし込んで位置エネルギーを稼ぎます。
黒部川第四発電所で待ち受けるのは6つのノズルを備えた世界最大級のペルトン水車。4基の発電機が33万5千kWという大量の電気を生み出しています。
黒部ダムは見られても発電所は図の通りダムからはるか離れた場所にあり、一般人の見学はツアーに当選した人以外はできません。2024年に向けて黒部川第四発電所も見学できる新ルートの整備が進められることになっており、完成すれば我々一般人も日本最大の水力発電所を見学できるようになります。楽しみですね!
談話コーナーには黒部ダムのライブ映像(パネル右上)が流されていました。気温17度と聞くとずいぶん暖かい気がします。パネルにあるような観光放水は6月中旬頃から始まるのでダムはまだ静かなままです。
今度は開業直後の雪に閉ざされた黒部ダムを見てみたいですね。
>> つづく <<