朝日が部屋に差し込んできて目が覚めました。ベランダに出ると、昨日と同じく湿度の高いモワッとした空気が全身を包みます。写真と違って全く爽やかな朝ではありません…
もやなのかガスなのか、なんだか太陽も霞んで見えますね。
起きてしまったことですし、ちょうど朝食が始まるので1階のレストランへ向かうことにします。
フロント周辺のインテリアを見ると華僑系が運営しているのがわかる「クルンカセーム・シークルンホテル」ですが、朝ご飯は一般的なコンチネンタルスタイル。
数少ない中華メニューの1つがおかゆです。タイでは「ジョーク Joke」と呼ばれる中華がゆは地味な見た目ですが、エビのダシが効いた少々パンチが強めの付けでとてもおいしい。朝からおかわりしてしまうほどでした。
後輩の組合員氏らは朝早くから集まって、JR北海道から移籍したDD51型ディーゼル機関車を見学しに行くツアー(クラウドファンディングの返礼品)へと足早に出かけていきました。
あさかぜは夕方まで市内観光をしようかな、ぐらいの大雑把な予定しか立てていません。あまりガチガチに旅程を決めても、昨日のガイドさんが言っていたように暑さで体が参ってしまいますからね。
「12時がチェックアウトだし、11時ぐらいに出ればいいや」と部屋でのんびりしようとしていましたが、部屋の外からは早くも掃除機の音が響いてきて落ち着かない…遅くまでいても邪魔だろうと、ろくに予定も定まっていないままホテルをチェックアウトしてきました。
午前10時、すでに気温は30度に達しているようです。
とりあえずホテルの目の前にある国鉄フアランポーン駅へ向かうことにしましょう。
駅前には2種類のバスが待機しています。後ろ側の2台は市内各所で見かける路線バスで、冷房付きのちょっとグレードが高いヤツです。普通の赤いバスは冷房がついていない代わりに1乗車8Bと格安、冷房つきのは区間により13~25Bと割高です。
とはいえ32円、52~100円とどのみち破格ですから、安く移動したいなら良い手段かもしれません。
手前の水色のバスは、市内で見かけたらお高い冷房つきのバス。
フアランポーン駅の前にいるのはどちらもバンスー新駅との間を結ぶ無料シャトルバスのようです。
新駅がまだ整備途上にもかかわらずフアランポーン~バンスー間は列車の本数が減ってしまって両駅間の移動が不便なので、このように救済のためのバスが運行されています。
バンスー新駅に移行した結果、旧ターミナルのフアランポーン駅を発着する列車は1日62本(2023年1月下旬現在)とほぼ半減しまったため、正面の入口は閉鎖されています。
現在は駅舎の左横、MRT駅のそばにある裏口のようなところから出入りできます。
昨日も書いた通り、フアランポーン(Hua Lumpong)はあくまで愛称。正式な駅名はクルンテープ駅、もしくはバンコク駅(Bangkok Railway Station)です。MRTの駅名はフアランポーンが正式ですけどね。
いかにもターミナル駅といった雰囲気が漂う、高いドーム型の天井が印象的なフアランポーン駅のコンコース。インターネットで少し前の写真を探すとびっしりとイスが並んでいましたが、今は中央部分のイスは撤去されています。なおさら駅舎の広さが際立ちますね。
そしてありがたいことに程よく冷房が効いています。その辺の空いているイスに座って、今日の行程を決めましょう。
正面中央部がホームへの入口、その左右にシンメトリーになるようにきっぷの販売窓口が設けられています。
稼働しているのは左側のみ、往時は長い列ができていたであろう窓口は主に観光客がパラパラと訪れる程度です。
ついでにホームにも入ってみましょう。
特に改札があるわけでもなく、出入り自由なのがフアランポーン駅の特徴。険しい顔をした職員が出入り口の机に張ってはいるものの、特にチケットをチェックするわけでもなく座っているだけ。写真を撮っているからといって止められることもなく、良くも悪くも無法地帯です。
ガラガラガラとけたたましいエンジン音を響かせて列車が到着しました。
牽引しているのはGE型というディーゼル機関車で、1960年代半ばに50両が米ゼネラル・エレクトリック社によって製造されました。現在では普通列車で運用されていることがほとんどですが、元々は国鉄を代表する特急列車の牽引も担当する主力機でした。
後ろには一般的な普通列車用の3等客車が連なっています。客車の形式や分類はなかなかカオスなことになっているらしく、Wikipediaによれば番号だけでは製造時期などの区別は難しいのだとか。
客車は基本的にタイ国産。バンコクの繁華街の1つ、アソークの近くにあるマッカサン駅併設の工場で製造されていました。
バンスー新駅をはじめ、改良された駅ではホームがかさ上げされました。一方でフアランポーン駅のように、昔ながらの駅はこのように線路とホームの高さがほとんど同じで、車両の床とは大きな高低差があります。
両方のホームに対応させるため、出入り口が2カ所ある3等客車では片側のドアにホームとの高さを合わせるための補助板が取り付けられました。車両の外にも「高いホーム用のドア」という注意書きが貼られています。
ドアは手動なので、別に低いホーム用のドアからよっこらせとまたいでも問題はなく、好きにしろという感じのようですが。
1・2番ホームの周辺は留置線として使われているようで、使っているんだかいないんだかわからない客車が無造作に並べられています。
右奥の留置線に見えるのは元JR西日本の24系25型のA寝台車です。1人用個室の1等寝台車として使われていたようですが、塗装が剥げてボロボロになっているところを見ると長い間運用には入っていない様子。
現在の1等寝台車は韓国・現代精工製(1997年)か中国・中車長春軌道客車製(2016年)の、いずれも2人用個室を備えた車両が使用されています。特に最新型の中国製客車は各個室にモニターが備え付けられており、それを使って食事の注文などができるシステムになっているとか。つなぐ両数が少ないこともあり、早い段階で予約しないと埋まってしまうことも多いそうです。
こちらは1997年頃から導入された韓国・大宇重工製の2等寝台車。調べてみると線路に並行に2段ベッドが並ぶ、いわゆる「プルマン式」になっているようです。
そして見覚えのある姿形をしている2等寝台車は元JR西日本の客車たちです。14系と24系の合わせて44両がタイ国鉄に譲渡されました。
写真のA.N.S.232はスハネフ15を改造したもの。連結部の幌や連結器周りに改造の跡が見えますが、全体的な雰囲気は日本での姿そのままです。
ほとんど定期運用がなくなった現在でも丁寧に手入れされています。
また新たな列車が到着しました。客車側を押すように入ってきた列車と、機関車を先頭に入ってきた列車の2本。思いのほか列車の発着が多いですが、必ずしも営業列車ではないようです。
フアランポーン駅の隣には国鉄の整備工場があるのも、バンスー新駅に完全移行できなかった理由の一つ。結局は整備のためにここまで持ってこなければいけないので、機能を移転させない限りフアランポーン駅までの線路は残り続けるのです。
出発を待つ普通列車は日本製のディーゼルカー。NKF型という汎用型車両で、車内にはセミクロスシートが並びます。複数の日本メーカーが製造を手がけており、写真の1220号車は日本車輌製。
ちなみに冷房はなく扇風機が回るのみで暑そう…
この車両を使用した夜行列車もあるそうですからなかなか過酷ですね。
>>つづく<<