まず始めに、2024年1月1日に発生した令和6年能登半島地震で被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。
元旦という祝賀ムードの中へ突然襲い掛かった災厄で、大切な人や思い出を失った悲しみを想うと何も言葉が見つかりません。被災地域の1日1秒でも早い復興を祈念しております。
日本赤十字社やYahoo!基金では募金活動が始まっています。あさかぜも微力ながら協力させていただきました。わずかでも被災された方々のお役に立てれば幸いです。
翌2日、羽田空港では大きな航空事故が発生してしまいました。新千歳から羽田へ向かっていた日本航空516便が、着地寸前に滑走路上にいた海上保安庁の小型機と接触し、両機とも炎上しました。
ほぼ満席、しかも飛行機に乗り慣れていない人の多い時期でありながら、乗客乗員376名が全員生還することができたのはこの上ない幸運でしたし、その根底には乗員による適切な処置が執られたからでしょう。
Aviation Wire誌などによれば、機体後方のインターホンは使えなくなってしまい、コクピットとのやりとりができなかったといいます。そんな困難な状況下でも乗客全員を避難させたクルーの方々に敬意を表します。
<羽田空港を飛び立つ当該機、JA13XJ。これを撮影した1ヶ月半後に機体が喪失するとは想像もしなかった>
一方、海上保安庁の中型飛行機(海保の分類)には6名の乗組員がいました。機長は重傷を負いながらも生還できましたが、残る5名が帰らぬ人となってしまいました…
事故時の映像を見ると、海保機から火の玉が上がっていたのが見えます。一瞬周囲を照らすほど大きなものでした。
海保機は能登半島地震の支援物資を運ぶ任務のため、新潟空港へ飛び立つところだったとのこと。地震がなければこの事故も起きていなかったかもしれないわけで、運命のからくりというにはあまりにむごたらしい結果です。深く哀悼の念を捧げます。
<事故機と同型の海上保安庁「MAボンバル300」。ベースはボンバルディアのDHC-8-Q300>
日本ではいつ以来かとなる死者を伴う大きな航空事故となってしまったために、多くの人から注目を集めているこの事故。有識者ヅラをした連中がYahoo!ニュースのコメント欄に訳知り顔で事故原因について書き込んでいるのを見ると、強い不快感を覚えます。
しかし、それ以上にひどいのはメディアの報道です。
国土交通省(航空管制)、海上保安庁、日本航空という当事者でも把握できていないことは多くありますし、そもそも航空事故に限らず大きな事故はただ1つの「原因」「要因」によって起きるものではありません。いくつもの要素が重なった結果、不幸な事故へと至ってしまうのです。
にもかかわらず、会見における記者の質問を聞くと、犯人捜し、アラ探し、責任のこじつけなど悪意が透けて見えるものが散見されます。非常に不快で吐き気すら覚えるほど。
緊急地震速報の誤報があったときの会見でもそうでしたが、“自分自身が国民を代表する崇高な存在だ!”と思い上がった記者の汚い人間性が手に取るように伝わってきます。
個人や特定の組織をアラ探しして糾弾したところで、事故の経緯は何も解明できません。犯人捜しばかりに力を入れた結果、大きな不正やその隠ぺいにつながっていった例が身近にいくつもあることは知っているはずです。
X(旧Twitter)でも、“犯人捜しは原因究明の妨げにしかならず、正しい結果に至らない”という指摘に対し、
「悪い方を吊るし上げ、見せしめにして、航空業界に危機感を抱かせたい」
と反論するポストもありました。
見せしめ、吊るし上げなど事故調査の観点では最悪の手段ですが、世の中には何かを悪者に仕立て上げないと気が済まない人が必ず一定数いるものです。
<X上の批判コメントでは、海上保安庁と自衛隊の区別がついていない人も見受けられた。写真は新潟空港に降り立った航空自衛隊のU-125A>
メディアというのはそのような誤った認識をしている人たちに広く正しい情報と知識を与えるのが役目であって、一緒になって騒ぎ立てる行為なんて本来はナンセンス。
でも現実にはそのようなことはなく、1つ1つの事象を騒ぎ立てて余計な憶測を生んでいるわけです。しかも筋違いの批判まで加えた上で。
何という体たらくでしょう!
他者の事故や不正は嬉々として取り上げ、人の不幸にはプライベートまでズカズカと土足で踏み込んでいくクセに、性加害が明るみに出た某芸能事務所の件のように自分たちにも責任の一端(どころではない)がある話になった途端、
「知らなかった」
「関与していなかったのでわからない」
などと小学生の子供のような言い訳をして逃れていくわけです。
どこまでも性根の腐りきった、下卑た連中だと思わざるを得ません。
まぁそんな同じ空間にもいて欲しくないような有害ゴミ未満のデマゴーグへの怒りはこれぐらいにして、事故調査についての話です。
航空事故の調査では、単純にそのときの出来事だけを調べるわけではなく、調査の対象はとても広範囲にわたります。
などなど、裏の裏まで徹底的に調査を進めます。
我々がテレビやネットのニュースから知り得るよりもはるかに多くのデータを収集していくのです。
その集められた膨大なデータを分析し、どのようなことをしたり、しなかったりすればその状況に陥らなかったかを導き出します。
そして同じような事故を起こさないために、人や設備の運用のあり方を変えたり、設備やシステムの改修・新設を促したり、といった提言まで行って事故調査報告書は完成します。
正しい調査結果を得るためには、データや物的な証拠だけでなく、当事者の証言も重要なものであるのは必然です。自分の身をかばうために事実とズレたことを言ったり、ウソを話されてしまっては正しい結論を導くことは不可能。
真相がわからなくならないように個人の責任を問わないというのが大前提になってきますし、運輸安全委員会の報告書には必ず冒頭にその旨が明確に書かれています。
調査には年単位で時間を要するものですが、過去から世界中で積み重ねられた事故事例とその対策によって、空の安全は高い水準で保たれているのです。
<2020年12月に発生したJAL機(JA8978)のエンジントラブルによる重大インシデントは、報告書が出たのは約2年後の22年8月だった。事故調査は長い時間がかかる>
航空事業に携わる人たちで構成される「航空安全推進連絡会議(JFAS)」からは、早くも1月3日に緊急声明が出されています。その声明文の中でも、
『憶測を排除し、事実認定のみが唯一かつ最優先であることを正確に理解する必要があります』
と述べた上で、
『報道関係者の皆さまやSNSで情報発信する皆さまは、今回の事故について憶測や想像を排除し、正確な情報のみを取り扱っていただくようお願いします。』
と釘を刺しています(強調はあさかぜによる)。
「○○だった可能性」などと曖昧な事柄を確定した事実であるかのように報道したり、それを見てYahoo!ニュースのコメント欄に勝手な分析を書かないようにしてくださいよ、ということです。
ヒコーキを趣味としている人の中でも、ナショナルジオグラフィックの『メーデー!:航空機事故の真実と真相』や、調査報告書に基づいた解説をしているYouTubeチャンネルを見ている人であれば、JFASの声明がいかに重要なことがよくわかっています。
趣味者だからこそ冷静になって、正しい事故調査が行われるように呼びかけていく必要があるでしょうね。
最後に、航空事故を題材に扱うYouTubeチャンネルの中で、個人的にオススメのものをご紹介しておきます。
<上記JA8987の重大インシデントの報告書にも、冒頭に「本事案の責任を問うために行われたものではない」という文が入っている。犯人捜しをしている人々に100万回読んで肝に銘じて欲しい>
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参考資料:
JAL、A350全損で150億円損失 業績影響は精査中 - Aviation Wire
https://www.aviationwire.jp/archives/291619
JAL機炎上、脱出経緯や乗務員の役割について説明【全文】 - Traicy
https://www.traicy.com/posts/20240106287498/
航空界最大の団体となるJFASが羽田空港での衝突事故で緊急声明 警察主導の事故調査に危機感 - sky-budget
https://sky-budget.com/2024/01/05/japan-aviation-news-11/
JAL機と海保機の衝突事故で日本乗員組合連絡会議と世界の10万人のパイロットが所属する国際定期航空操縦士協会連合会が緊急声明 - sky-budget
https://sky-budget.com/2024/01/07/alpa-japan/
2024年1月2日に東京国際空港で発生した航空機事故に関する緊急声明 - 航空安全推進連絡会議
https://jfas-sky.jp/2024%e5%b9%b41%e6%9c%882%e6%97%a5%e3%81%ab%e6%9d%b1%e4%ba%ac%e5%9b%bd%e9%9a%9b%e7%a9%ba%e6%b8%af%e3%81%a7%e7%99%ba%e7%94%9f%e3%81%97%e3%81%9f%e8%88%aa%e7%a9%ba%e6%a9%9f%e4%ba%8b%e6%95%85/
2024年1月2日発生の羽田空港における航空事故に関する緊急声明 - ALPA Japan
https://alpajapan.org/47ajn13-2024%e5%b9%b41%e6%9c%882%e6%97%a5%e7%99%ba%e7%94%9f%e3%81%ae%e7%be%bd%e7%94%b0%e7%a9%ba%e6%b8%af%e3%81%ab%e3%81%8a%e3%81%91%e3%82%8b%e8%88%aa%e7%a9%ba%e4%ba%8b%e6%95%85%e3%81%ab%e9%96%a2/
【事故調査を行う運輸安全委員会の当該ページ】
運輸安全委員会トップページ > 航空 > 調査中の案件 > 概要
https://jtsb.mlit.go.jp/jtsb/aircraft/detail2.php?id=2376