あさかぜみずほの趣味活動記録簿

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大騒ぎになりそうなPW110Gエンジンの点検問題

エアバス・A320neoシリーズの主力エンジンの1つPW1100G-JMエンジンの製造工程で品質問題が発覚し、当初よりも騒ぎが大きくなっています。

 

<PW1100G-JMエンジンの特徴的な内部構造を解説した模型。あいち航空ミュージアムの展示>

 

このエンジンはアメリカの航空・宇宙産業の大手企業「レイセオン・テクノロジー(Raytheon Technologies、以下RTXの傘下にある「プラット・アンド・ホイットニー(Pratt & Whitney、以下PW社」が製造している小型機用のジェットエンジンです。

 

PW社はジェット旅客機の草創期からエンジンの製造をしてきた老舗で、JT8D(Boeing 737初期型、Douglas DC-9など)、JT9D(Airbus A300、Boeing 747クラシックなど)という傑作エンジンを生み出してきました。
またPW4000エンジンはボーイングが生産している空中給油機KC-46Aにも採用されるなど、現在でも多くの実績を持つエンジンメーカーです。

 

今回、製造上の問題が発覚したのはPW社が開発・製造し2015年12月から実際にお客さんを乗せて飛行している、PW1100G-JMというエンジン。

 

技術的な特徴はさておいて、PW社によると
「エンジン部品の製造に使用される金属粉末について稀な症状が発生し、早期の検査が必要になると判断した」
とのことで、2015年末~2021年にかけて製造したエンジンが対象です。航空新聞社の記事では、エンジン部品の一部に使われている金属粉末にコンタミネーション(汚染)が発生していたとのこと。

 

2023年9月14日時点ではどのロットや製造番号が対象になるかは明らかになっていないそうですが、最大で700~1,000台のエンジンに検査が必要だと見込まれています。
このうち200台は9月中旬までに飛行機から下ろす必要があるとのこと。

 

飛行機から取り外し、検査をして、もう一度装着するまでに必要な期間は250~300日とされています。
つまり航空会社は該当するエンジンを載せた機体は8~10ヶ月の間使えないことになるわけです。

 

検査日数が長く必要なこともあり、PW社およびRTXは2026年にかけて全世界で平均350機が空を飛べずに地上で駐機することになる(AOG=Aircraft On Ground)と見込みました
検査のピークは来年2024年の前半で、AOGの機体は650機に上る予想になっています。

 

当然、検査に必要な費用だけでなく、飛行機を飛ばすことのできない航空会社への損害賠償も必要になってきます。RTXの見込みでは数年間で30~35億ドル、日本円にして約4,400~5,100億円規模の費用負担になるとしています。

 

<機材の稼働率・回転率がものを言うLCCでは、しばらく使えない飛行機が出るのは大問題。フィリピンのセブ・パシフィックはすでに2024年の稼働数を下方修正している>

 

なお、この問題はPW社・RTXに限らず、日本企業への影響も懸念されています。エンジンの主要部品である圧縮機の組み立てを行っているIHIは特に大きな影響が出る見込みですし、IHIほどではないとはいえ川崎重工業三菱重工業もPW1100Gプログラムに参画している以上は業績に影響する可能性が否定できません。

 

メーカーの業績云々もさることながら、利用者である我々にもダメージを与えてくることは確実です。世界中の航空会社、フルサービスキャリアであろうとLCCであろうと、A320neo・A321neoは注文してからデリバリーされるまで数年待ちの大人気機種です。
全てが全てPW1100Gエンジンを搭載しているわけではなく、A320neoシリーズのうちPW1100Gのシェアは約4割。残りの6割はライバルのCFMインターナショナル社が生産するLEAP-1Aエンジンを使っています。

 

とはいえPW1100Gを載せたA320neoシリーズはすでに1,500機以上が出回っていますから、看過できるものではありません。どこかへ旅行に出かけても“エンジンの点検のために欠航”というありがたくないイベントに出くわす可能性は否定できません。

 

ちなみに、日本ではANA全日本空輸が運航しているA320neoの11機と、A321neoの22機、全33機がPW1100Gを装備しています。先述のようにどのエンジンが長い期間を要する点検の対象かはまだわかっていないものの、大半の機体が問題のエンジンの製造期間とほぼ重なる時期に納入されているので、影響が及ぶ可能性は十二分にあります。

 

<PW1100Gを採用しているANAのA321neo。同社のA321neoは2017年9月~2021年12月にかけて納入されており、製造問題の出た期間と重なる>

 

なお、同じANA HD傘下にあるLCCのピーチはA320neo、A321LRともにCFM製LEAP-1Aエンジンを採用。またA321LRを運航するJAL系のLCCジェットスター・ジャパンもやはりLEAP-1Aを採用しているので、今回の件で2社に影響が出ることはなさそうです。

 

<ピーチのA320neo(上)とジェットスター・ジャパンのA321LR(下)。2社ともCFM・LEAP-1Aを採用しており、今回の製造問題とは無関係>

 

技術的にもとても優秀で期待以上の性能を発揮してきたエンジンだけに、早期の原因究明と解決を願いたいものです。

 

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参考資料:

PW1100エンジン搭載「A320neoファミリー」影響、取り下ろし追加検査必要に - Fly Team

https://flyteam.jp/news/article/139715

 

P&W、一部製造期間の「PW1100G」金属粉末にコンタミ - 航空新聞社

https://www.jwing.net/news/67602

 

P&W、コンタミ問題で年平均350機のA320neo運航停止へ - 航空新聞社

https://www.jwing.net/news/69049

 

IHI、P&W製エンジンで業績に影響想定-現段階で正確な評価困難 - Bloomberg

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-09-12/S0V487DWLU6801

 

IHIと川重、PW1100追加検査「影響あると想定」 - Aviation Wire

https://www.aviationwire.jp/archives/284110