あさかぜみずほの趣味活動記録簿

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アエロフロート狂気の30億ドル投資計画、と共食い整備のウワサ

ファーンボローエアショーで思い出した飛行機ネタです。今回はアエロフロートのお話

 

ウクライナへの侵略戦争を仕掛けて多くの国からのけ者になっているロシア。その国営航空会社であるアエロフロート・ロシア航空が1,852億ルーブル米ドルにして30億ドルにも及ぶ投資を行うそうです。


いわゆる「西側諸国」の大部分への乗り入れどころか、一部の旧ソビエト構成国からさえ上空通過を許可されない有様で旅客数は大幅に減っているそうですが、ロシア政府の「雨の日ファンド」とやらで投資資金がもらえるとか。さすが国営

 

<コロナと制裁で日本では姿を見かけなくなったアエロフロート。羽田に移行してからは最新鋭のA350-900で運航する予定だった>

 

当然のことながらエアバス Airbus、ボーイング Boeing、エンブラエル Embraerといった西側の飛行機を買うことはできないので、必然的に自国開発のものを選ぶことになります。
200席以上クラスとして現在開発中のイルクート・MS-21(現地表記はMC-21)、100席以下のリージョナル機としてスホーイスーパージェット100(SSJ100)、そしてオマケなのか200席前後クラスのツポレフ・Tu-214(Tu-204の近代化バージョン)合わせて300機ほど調達する気でいるとか。

 

ロイターの記事ではそれら3機種がリストアップされていましたが、他のメディアによると政府専用機などでも運用している大型機、イリューシン・Il-96も発注する可能性があるとのこと。

 

…なかなかすごいラインアップで感心してしまいました。

 


この中で最新鋭の技術を投入したのはMS-21です。
ロシアがエアバスA320ファミリーやボーイング737シリーズに追いつけ追い越せと開発した機体で、当初のプランより6年以上遅れてはいるものの、テストフライトも開始しています。
大先輩にケンカを仕掛ける以上、当然ロシアの認証のみならずEUの航空規制当局であるEASAにも認可申請を出しており、今までのようなロシア中心ではなく本格的に世界へ向けて売り込む機体になるはずでした。
この情勢となりEASAでの検査も止まっているはずなので、MS-21が大手メーカーと張り合う姿を見ることは当面の間なくなりましたが…

 

そしてハイテク機器を多数使う飛行機は、1つの国で部品が完結しませんMS-21も機体はロシアで開発・生産し、主翼も国産の複合素材を最新の技術で作り上げるなど、外の部分は確かに純然たるロシア製です。当初は主翼に使うカーボンファイバーは外国からの輸入に頼っていましたが、現在は国産化されたとか。

 

他の部分を見れば、EASAで認可を受けようとしているモデルのエンジンはプラット・アンド・ホイットニーのPW1400-JMでアメリカ製(主要部品は日本メーカーとドイツのMTUが製造)。一応ロシア国内向けには国産のアビアドビガテル製PD-14エンジンを搭載してテストフライト中で、ロシア国内の認証は通りそうな感じです。


アビオニクスコクピットの操縦機器や制御システムなどのこと)はロックウェル・コリンズ(米)が主導し、モニター画面やEFBはハネウェル(米)タレス(仏)が中心となります。電力関係はハミルトン・スタンダード(米)が、サイドスティックはUTCエアロスペース(米)が、シートはゾディアック・エアロスペース(仏)が、といった具合にMS-21は西側の大手企業の名前が並ぶ国際プロジェクト

 

もちろん主翼や機体以外にもロシア製の部品はありますが、飛行機を飛ばす根幹の技術は外国に頼らざるを得ないというか、頼った方が効率がいいのです。旅客機は信頼がモノをいう世界なので、信頼が確立されているメーカーの製品を使えば認証まで含めた開発期間が短くできますからね。

 

それゆえ今回の制裁で西側との取引がほぼ全滅している現状では、MS-21の量産化はかなり難しいのではないかと思います。仮にロシア製部品で量産体制を整えたとしても信頼性に大きな疑問符がつくので、少なくともロシアとその影響下にある国以外で通用する機体にはならないでしょう。

 

<MS-21が輸出向けモデルで搭載する予定のエンジン、PW1000-JM。写真はANAのA321neoが搭載するPW1100G>

 


もう1つ大量発注したと思われるスホーイのスーパージェット100。以後はSukhoi Superjet 100を略したSSJ100と書くことにします。


SSJ100は100席以下のリージョナル機で、すでにロシアを中心に運航が行われています。一時期日本にも乗り入れていましたが、日本路線を運航していたヤクティア・エアに安全上の不備があるとした国際線を取りやめることになりました。2018年頃からは代わりにアエロフロートがA319で同じ路線を飛ばしており、今のところ日本国内でみることは難しいようです。

 

SSJ100もやはりエンジンはサトゥルン(露)とスネクマ(仏)の合弁企業アビオニクスタレスAPUはハネウェルマーケティングはレオナルド(伊)とのJV…と西側の技術やノウハウが多く取り入れられた機体です。
エンジンのみ将来的に国産(おそらくアビアドビガテル製)にすることを目指していますが、Wikipedia英語版を見る限りでは合弁企業のパワージェット社SaM146を引き続き使っているようです。

 

まぁつまりMS-21と違ってSSJ100は量産体制こそ整っているものの、やはり西側諸国の技術や部品を根幹部分に取り入れているため、作り続けることができるのかどうかは不透明です。

 

<Sukhoiが西側にも通用する飛行機として気合いを入れていたSSJ100。実績のなさに加え、海外でのデモフライトで墜落事故を起こしたのも販売不振の一因>

 


本命?のツポレフ・Tu-214
聞き慣れないモデルですが、1988年に初飛行し1996年にアエロフロートで就航した、双発ジェット機のTu-204がベースの旅客機。非常ドア周りに若干の変更が施されたのと製造工場が変わったことで、モデル名もTu-214と改められたようです。基本的な部分はTu-204と変わりないものと見られます。

 

見た目もサイズもボーイング757とよく似ています。サイズはエアバスA321と似た感じ。
東側の航空機としては初めて西側のエンジンが搭載できるようにした機体で、国産のアビアドビガテル製PS-90エンジンに加えてロールスロイス(英)製RB-211エンジンが選べるようになりました。なじみのあるRR製エンジンを搭載できるようにしたことで、西側諸国への売り込みを図ったものと思われます。

 

<吸収合併されて現存しないウラジオストク航空のTu-204、エンジンはもちろんアビアドビガテル製。2011年4月撮影>

2021年末までのTu-204/214の製造機数は貨物型や軍用機も含めて89、オペレーターはロシア、北朝鮮キューバ、西側はドイツ(退役済み)ぐらいというところで何となくお察しではあります。少ないながらも複数の派生モデルがあったりして、少量多品種生産の何ともロシアらしい航空機です。

 

デビュー時期がエアバスA320と近しいこともあって、機体の制御はコンピューターを介したフライ・バイ・ワイヤを採用。コクピットも6面のモニターを配置したグラスコクピットとなっているなど、当時のロシア製旅客機とは一線を画すものといえます。
その後A320シリーズはエンジンを次世代のものに変更(=New Engine Option)したA320neoが登場していますが、Tu-204/214にはその予定はないようですし、そもそも年に1機2機作っているかどうかというレベルなのでアップデートする余裕なんてなさそうです。

 

とはいえツポレフの親会社となっているユナイテッド・エアクラフト・コーポレーション、英語で書くと何ともアメリカっぽい雰囲気になってしまうのであえて「統一航空機製造会社」と書くことにしますが、そこによれば2030年までに70機のTu-214を作るつもりでいるようです。


純粋なロシアの技術がベースになっているので作れなくはないような気もします。まともなものができるかどうかは別として…

 

ロシアの航空機情勢にも詳しい経済研究者の渡邊光太郎氏によれば、精密さを求められる工作機械の全てはドイツ、日本、アメリカの製品だそう。ロシア製の工作機械は精度が低くても構わないようなものに使われているのが実情だそうで、そうした面からも本当にTu-214が製造できるのかは疑問です。
できたとしても安全に飛ぶことができる機体になるのかどうか、というのもまた疑問ですね。

 

<Tu-204の機体の雰囲気は写真のBoeing 757によく似ている。ソ連の機体が西側の機体に近似するのはTu-204に限った話ではない…>

 


関連して、一部のニュースでは中国の裏切りの可能性について触れられています。sky-budgetの記事によると、中国がロシアに向けて航空部品を供給する意思を見せたとか。

 

いわゆる「東側」の仲間なので可能性はありそうですが、中国でもほとんどの旅客機がエアバスボーイングエンブラエルで構成されているので、二次制裁の可能性を考えると利口とは言えません。
このニュースも出所をたどっていってみると、どうもロシアのタス通信が発信源のようです。この情勢になってからロシアのプロパガンダを発信しまくっている通信社ですから、そもそもこのニュースの信憑性自体がだいぶ低いといえます。

 

ただ中国の立場を見ていると「壊れた部品の処分」とか「『国産』部品の輸出」などといった名目でロシアに与する可能性がないわけではないので、注意を払わなければならない状況ではあると思いますが。

 


なお8月9日のロイター通信の報道によると、アエロフロートはまだピカピカのA350-900新造機を部品取りのためにバラし始めたとか。恐れられていた事態が現実のものとなりました。
同様にSSJ100も共食い整備に使われている機体があるとのことで、いよいよロシアの航空機事情もヤバそうな局面に入っているのがうかがえます

 


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参考資料:
ロシアのアエロフロート、30億ドル増資計画 航空機発注も検討 - ロイター通信https://nordot.app/907122650498859008?c=768367547562557440

 

Russia’s flagship Aeroflot plans $3bn emergency cash infusion - Al Jazeera
https://www.aljazeera.com/economy/2022/6/8/russias-flagship-aeroflot-plans-3bn-emergency-cash-infusion

 

中国が方針転換、ロシアのエアラインに対してスペアパーツを供給する準備を整える - sky-budget
https://sky-budget.com/2022/06/24/china-supply-aircraft-spare-parts-for-russia/

 

Chinese Spare Part Supply Could Keep Russian Fleets Running For Longer - Simple Flying

https://simpleflying.com/chinese-spare-part-supply-keeping-russian-fleets-active/

 

China ‘ready’ to deliver aircraft parts to Russia: Chinese Ambassador to Russia - AEROTIME HUB
https://www.aerotime.aero/articles/31344-chinese-companies-ready-to-deliver-aircraft-parts-to-russia

 

Aeroflot Is Reportedly Using Its Young Airbus A350s For Spare Parts - Simple Flying
https://simpleflying.com/aerflot-airbus-a350-spare-parts/