あさかぜみずほの趣味活動記録簿

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カタール航空とエアバスは互いに手を切ったらしい

偶数年にイギリスのファーンボロー空港で開催される「ファーンボロー国際航空ショー Farnborough International Airshow」通称ファーンボローエアショー。世界屈指の規模を誇る航空見本市の1つで、今年2022年も7月18日~22日の5日間の日程で開催されました。

 

各航空機メーカーご自慢の最新機材がお披露目されるのはもちろんのこと、注目はエアショー中に行われる商談です。

 

身近なところでは、ANAホールディングスが傘下のANAで運航するボーイング737-800の後継機として737 MAX 8を30機正式オーダーしたこと、また20機オーダーしていた777-9(旅客型)のうち2機を777-8F(貨物型)へオーダー変更したことが話題になりました(会期前に正式発注、会期中に調印式

 

mizuho-asakaze.hateblo.jp


またデルタ航空アメリカ)が737MAXシリーズを最大130機イージージェット(イギリス)エアバス A320neoを36機オーダーするなど、エアショー中は大きな商談が行われるのが特徴です。

 


そうしたニュースの中であさかぜが気になったのは、カタール航空ボーイング 737MAX 10を25機発注した、というものです。

 

カタール航空元々200席クラスのナローボディ機エアバス A321を使用しており、さらなる規模拡大のためにA321neoを50機発注していました。
他にもA380の導入や、A350-1000においては世界で初めて路線投入するなど、エアバスとの関係がかなり深いエアラインでした。

 

<QTRは最新鋭機材としてA350をアピールしてきた。大型機に装備されるビジネスクラスのQSuiteは数年前のファーストクラス並みの座席やサービス>

 

様子がおかしくなってきたのは2020年夏頃からで、カタール航空A350シリーズの塗装の不具合を理由に新造機の受け取りを拒否します。また安全上の懸念があるとして一部のA350を運用から外し、メーカーのエアバスに対応と運航停止の補償を求めました。
カタール航空の主張では塗装のひび割れや剥離により、避雷器やその周辺の銅でできたメッシュの下地が露出しているとしています。このことが安全運航の妨げになる可能性がある、というわけです。

 

カタール航空の言う塗装面の劣化は、ルフトハンザドイツ航空キャセイ・パシフィック(香港)など他の航空会社でも確認されています。エアバス自身も劣化が起きていることは認めており、表面上の問題で安全運航に支障はないものの航空会社と連携して対応にあたると発表。実際に劣化が確認された航空会社では運航を続けていますし、それが原因のトラブルは起きていません


それでもカタール航空側は“安全上問題ない”というエアバスの立場が気に入らないようで、「納得できる原因究明をしろ」「金銭補償をしろ」発言がエスカレートしていきます。

 

堪忍袋の緒が切れたエアバスは、大口顧客であるカタール航空
「これ以上の侮辱は耐えられない」
とイギリスの裁判所に提訴。折しも新型コロナウイルスの大流行でカタール航空も含め航空業界は大不況に陥っていた時期でもあり、エアバスは「カタール航空の要求は金銭」と主張し、怒ったカタール航空もそれに応酬して…
泥沼の争いへと突入してしまいました。

 

この泥試合の中で、エアバスカタール航空が出していたA321neo 50機分のオーダーを取り消します。巨額の取引を自ら吹っ飛ばしたことになりますが、
「建設的な対話をしようとしているのに、この顧客カタール航空のこと)が誤った内容を言いふらしている」
といった趣旨のコメントをエアバスは発表していて、よほどカタール航空と手を切りたかったものと見えます

 

A350と違ってA321neoのことは気に入っていたらしいカタール航空は、この「オーダーの取り消しの取り消し」を裁判所に申し出ましたが、裁定はエアバス側の主張が通りました。機体を調達できなくなったカタール航空は、A321neoを前提としていた戦略を考え直さねばならない状況に陥っています

 

<導入から日が浅いからか、日本航空A350では同様の現象は報告されていない模様。国内線向けは全機スムーズに納入された>


A321neoが選べない以上、同規模の旅客機で残っているのは737 MAXしかありません。A321neoのオーダーが取り消された後、当てつけのようにボーイングと737 MAXの覚書を交わし、そのまま失効したかと思いきや今回のファーンボローエアショーで正式な発注へと至ったのでした。

 

だがしかし、これでカタール航空の求めるものが満たされるのかというと、なんとも言えない部分があります


今回発注したのは737MAXシリーズの中でも最大となる-10(最大230席ですが、それでも座席数はA321neo(最大244席に少し及びません
航続距離も同様で、737 MAX 10の6,110kmに対してA321neoは6,500km5%以上も違う上に、737 MAXには存在しない航続距離延長型のA321LRに至っては7,400kmも飛べます。

 

加えてA321neoは従来型のA321ceoと操縦資格が共通なのでパイロットは一度に両方の機体に乗務できますが、A321とB737は当然ながら全く互換性がないので操縦資格は別、つまりパイロットを共通化できません
長ければ数ヶ月となる移行訓練も必要になってきます。

 

さらに問題なのは、737 MAX 10の開発がまだ終わっていないということです。すでに世界中の空を飛び回って実績のあるA321neo・A321LRに対し、737 MAX 10は試験飛行こそすれどまだ型式証明が取れていません一人前の飛行機と認められていないわけです。
型式証明の取得は2022年内を見込んでいるようですが、まだはっきりと明言できる段階ではありませんし、2023年にもつれ込むとコクピット周りの問題が加わるため、さらに面倒事へ発展していく可能性があります。

 


…といった具合に、カタール航空はなかなか苦しく先が見通せない状況にあります。ですがエアバスとの審理が終わらず、決着も話し合いもついていない状態で正式に737 MAX導入へのゴーサインを出したということは、カタール航空側もエアバスとは訣別することにしたのでしょう
当初は興味を示していたA350の貨物型、A350Fも取りやめてボーイング 777-8Fを導入することにしたようですし。

 

A350絡みの審理も含めて、エアバスカタール航空の関係性は今後も気にしていきたいと思います

 

<「我々の最大の失敗はA380を導入したこと」などとケンカを売る内容も散見されるカタール航空CEOの発言。なんだかんだ言い訳しつつ、同社は2022年夏からA380の運航を再開している>

 

なお2022年9月に入り、エアバスは残っていたカタール航空向けA350の注文を取り消したとの情報が。いよいよ両社は後戻りできない局面に突入しています。
まぁカタール航空エアバスボーイングにかなり強気の要求をするだけして譲歩には応じない、という脅迫外交と取られかねない「交渉術」を行ってきた会社なので、ある意味自業自得という部分はあるのですが…

 

A350のオーダー取り消しについてはまた別の機会に触れることにします。


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参考資料:
ANA、777X貨物機と737MAX発注 片野坂HD会長「安全性保証されていると確信」 - Aviation Wire
https://www.aviationwire.jp/archives/255353

 

カタール航空ボーイング737-10型機を最大50機発注 - Traicy
https://www.traicy.com/posts/20220201231723/

 

エアバスカタール航空と決別を希望 A321neoの受領を求めるカタール航空に対して『B737MAXはA321neoの同等かそれ以上の航続距離がありますよ』 - sky-budget
https://sky-budget.com/2022/04/14/airbus-qatar-airways-court-hearing/

 

Qatar Airways' A321neo Order Canceled By Airbus Amid A350 Dispute - Simple Flying
https://simpleflying.com/airbus-qatar-a321-order-revoked/

 

What’s behind legal dispute between Qatar Airways and Airbus? - Al Jazeera
https://www.aljazeera.com/news/2022/1/23/whats-behind-legal-dispute-between-qatar-airways-and-airbus

 

Boeing CEO Says 737-10 MAX Production Risks Cancelation - Airways magazine
https://airwaysmag.com/boeing-ceo-737-10-production-risk/