※本文中の移動距離は「Googleタイムライン」機能を基にしています。実際の距離や営業キロとは誤差があります。
朝風呂まで済ませてホテルを出てきました。やはり大浴場つきのホテルはいいものですね。朝からすっきりした気分になれます。
朝7時前の博多駅は思っていたより気温があって、10月なのにちょっと暑いぐらい。今日の長丁場の前に朝ご飯を食べていくことにしましょう。
博多駅の1・2番ホームの先端にある「まるうまラーメン」で、昨日博多ラーメンが食べられなかった埋め合わせをします。ちょっと贅沢ですが720円の「山笠ラーメン」を券売機で選択。ゆで卵にキクラゲ、もやしが載って思った以上にボリュームがあります。
やっと豚骨ラーメンを食べられた安心感はありますが、ホーム上のラーメン店ですからササッと食べられることが最優先です。麺は硬さを聞かれることなく柔らかめのものが出てきますので、「固め」とか「バリカタ」とかが好みの人は大人しくホーム以外のラーメン屋へ行きましょう。
さあ、なかなか乗る機会に恵まれなかった「にちりんシーガイア5号」宮崎空港ゆきでスタートです。営業キロで413.1kmを走り抜ける、夜行列車を除けば日本で最も長距離を走る定期特急列車。所要時間はなんとおよそ6時間。
今年3月のダイヤ改正まで宮崎空港ゆきの「にちりんシーガイア」にはハイパーサルーンこと783系が充当されていたのでさして興味がありませんでしたが、そのダイヤ改正で「にちりんシーガイア」そのものが1往復へ削減された代わりに787系が充当されるようになりました。これは乗りに行くしかない!と願い続けてようやく実現の日が来たのです。
発車10分前に入線してきた787系は堂々の6両編成。1号車はグリーン車で、今回は奮発して「DX(デラックス)グリーン」を選んでみました。普通のグリーン車からガラスのついたてで隔てられて空間には、大型でクッションの利いたシートが3席だけ置かれています。
リクライニング、レッグレストともに電動。読書灯は荷物棚の下についています。
壁側にはコンセントが装着されており、ケータイの充電ができるのは長時間移動で大いに助かります。ノートパソコンも広げられますが、特に日豊本線に入ると揺れが大きくなるのであまりオススメはしません。
通常のグリーン席はDXグリーンに比べると質素なデザインですが、それにしても座席は上質ですし1人あたりのスペースも広く取られています。以前「きりしま」用の787系に乗ったときはAC電源がありましたが、この車両もあったのでしょうか?チェックを忘れてしまいました。
もうひとつ787系の特徴は荷物棚。飛行機のようなフタつきになっていて、雑多な荷物が見えないところもクールさを演出します。さすがに「バッチン!」と閉まるところに経年の見える部分もありますが…
荷物が滑り落ちたりするリスクが大きく減るのは良いところですが、忘れ物は増やしそうですね…
デッキに近いところはグリーン個室となっています。4人まで乗れる個室で、1室分の料金を払えば1人でも乗車できます。残念ながらこの日はすでに予約が入っていて取れませんでした。
誰の目にとまることもなく、仕事をしようが寝ようが何でもできるというのは魅力ですよね。
個室のない側は窓のない通路になっているので、巨大なキャンバスがごとく大きなロゴが描かれています。
今はJR九州の特急車両共通となった「AROUND THE KYUSHU」のロゴマークが入るようになっていますが、九州新幹線が開業する前はここに「TSUBAME」と入っていたのを覚えています。いつか往時のツートンカラーを再現した上でTSUBAMEのロゴを復活して欲しい…
■ のりもの12:JR九州・787系(博多→宮崎空港:394km)
7:30、定刻通り博多を発車しました。車内に聞こえてくるモーター音の響きに思わずニヤニヤしてしまいます。
そう、787系はグリーン車でありながらモーター音が堪能できるのが素晴らしい!!
普通の人にはどうでもいい話ですが、あさかぜのような「走行音に萌える」タイプのちょっと変な人間からしてみればこの上ない贅沢です。しかも787系のような交流区間を走る車両は関東の直流型とは違う独特のモーター音を奏でるので、それがまたたまらない。座席とモーター音だけで永遠に酒が飲めます。まだ飲みませんが。
興奮しすぎたので落ち着きましょう。
実はデラックスグリーンもあさかぜが押さえにいったときは最後の1席でした。価格差の割にいまひとつ…なんて不人気だと聞いていただけに意外です。
小倉までにデラックスグリーンの残り2席と、通常のグリーン席も4割程度が埋まりました。
小倉で3分の停車の合間に座席の向きを変えておきます。ついでに隣のおばちゃんたちが座席の回転に困っていたので手助けします。DXグリーンの座席は他と違って、座席の背面側に回転用のステップがあるのでわかりづらいんですよね…あさかぜも最初迷いました。加えて座席が電気仕掛けなので他のシートよりも重く、回転させるのにも少々力がいります。
世間体があるのでここまで我慢していましたが、素晴らしい787系の環境にもう我慢できなくなったので「本麒麟」を開けてしまいます。ぱっと見サラリーマンっぽいスーツ姿のヤツが朝9時前から酒を飲むとは異様な光景ですが、幸い隣のおばちゃんたちはそういう無粋なツッコミや視線を送ってくるようなタイプではなかったので助かります。
…いや旅行中なだけで、普段はこれでもサラリーマンです。誤解のなきよう。
中津を過ぎると田園風景が広がります。金色の田んぼが美しい。
博多から2時間半をかけて大分に到着しました。「ソニック」は2時間で突っ走る列車もあるので、そこそこ飛ばしていた787系でも振り子式車両にはかないません。
博多・天神~大分間はライバルの高速バス「とよのくに号」が2時間45分ぐらいで走破してきます。しかも運賃は「ソニック」の指定席より2,000円以上も安いですから、それなりに大きなアドバンテージがなければ負けてしまいます。
実際、バス大国九州では電車に乗るよりバスを使った方がアクセスの便利な街がいくつもあるので、振り子車両だったり観光列車だったりJR九州も必死です。
大分からさらに1時間弱、佐伯(さいき)に到着しました。宮崎県との県境の街で、ここから「宗太郎峠」という険しい峠を越えて宮崎県へと入ることになります。
青春18きっぷの利用者にとっては一段と厳しい峠になったのもこの宗太郎越え。佐伯から南へ向かう普通列車は1日3本だけしかなく、しかも2本は重岡止まりなので県境を越えるのは佐伯6:18発延岡ゆき(2021年10月現在)の1本だけ。
延岡から峠を越える普通列車は早朝と夜の2本ありますが、それにしたって日常生活にまともに使えるものではありません。まぁあさかぜが大学生だった頃でも1日3往復しかなかったんですけどね…
佐伯を出ると山深くなってきました。重岡までは沿線にちらほら住宅が見えますが、ここまで列車が不便だったらみんなクルマを使いそう。1~2時間に1本程度が運転されている特急列車は佐伯~延岡間が当然のように無停車なので、およそ1時間はドアが開きません。
速度も落ち、車輪をきしませて峠を登っていきます。峠の名を冠した宗太郎駅は利用者の少なさ、列車でのアクセスの難しさから秘境駅にカウントされることもありますが、地図を見るとすぐそばに国道10号線が通っているので手段を選ばなければ秘境駅とはいえないレベル。
一部の「にちりん」はドアを開けない運転停車をして行き違いをすることもありますが、「にちりんシーガイア5号」はそのまま素通りです。
峠を下りてくると平地が広がり、また日本らしい黄金色の田んぼが広がるようになります。温暖な宮崎県だからか、昨日見ていた中国地方よりも刈り取りの終わった田んぼがはるかに多い印象です。
宮崎は「陸の孤島」なんて言われることもあります。北と西は山で阻まれ、東と南は太平洋、高速道路のような交通網が発展していない時代では確かにそうだったかもしれません。
鉄道で博多から宮崎市は未だに5~6時間を要する場所ですが、新八代までの新幹線とバスを組み合わせれば半分程度の所要時間になりますし、福岡~宮崎間の航空便もあるので極端に不便というほどの場所ではなくなりました。
車窓にいくつも工場が見えてくると、工業都市延岡の証です。延岡は「旭化成」の創業の地であり、本社が東京に移転した現在でも多くの旭化成関連企業の工場が延岡に集中しています。
延岡~宮崎空港間は特急「にちりん」に加えて特急「ひゅうが」も運転され、概ね1時間に1本程度の便数が確保されています。宮崎と延岡の移動需要の高さがうかがえます。
延岡を出ると宗太郎越えの遅さがウソのようにスピードが上がりました。
鉄道マニアには有名ですが、宮崎~延岡間は旭化成の手助けもあって高速化が行われた区間です。鉄道は遅いし国道は混むし…ということで空港から延岡の工場を結ぶ社員向けヘリコプター定期便を用意したものの、開設から1年半でパイロットと社員10名を失う墜落事故を1990年に発生させてしまいます。
ヘリは安全とはいえないし、交通事情の悪さを放っていた宮崎県にも責任があるとして、工費の大半を県とJR九州が負担して最高速度を85km/hから110km/hへ向上させる高速化が1993年から行われました。工費のおよそ1割を旭化成も負担しています。
県都宮崎に到着です。時刻は13:07、博多から5時間半をかけてきました。快適な座席で酒を飲みつつ移動してきてもそれなりに遠いなぁと感じる距離です。所要時間なら札幌~網走間を結ぶ特急「オホーツク」と同じですが、こちらはもう少し先があります。
宮崎からは普通車自由席に限って乗車券だけで乗れるようになります。宮崎市内から空港までの利便性を向上させる策で、所要時間も10分程度とかなり便利な感じ。空港から南や西側へのアクセスはバスの方が便利なようですが…
13:19、5時間49分の長旅を終えて宮崎空港に到着しました。快適なDXグリーンで過ごしてこられたのであまり疲れはありませんが、できることなら今度はグリーン個室で豪遊してみたいものです。
やりきった感じがありますが、旅はここが中間地点。折り返しの合間40分ほどでお昼ご飯を食べてこなければ。
到着前から何にするか悩んでいましたが、日本全国の空港なんて基本的に食べられるものはラーメン、カレー、牛丼といった具合にだいたい一緒です。奇をてらって好みの味でないものを食べても旅行記分に水を差すので、無難にカレーでも食べましょう。
空港のレストラン街に入っている「レストラン コスモス」で宮崎らしく「スパイシー宮崎和牛カレー」(1,350円)をいただきます。スパイシーとはいってもほんのり辛い程度で、個人的にはもっとヒリヒリしてもいいぐらい。
脂がのった宮崎牛は柔らかく煮込まれていて、口に入れるとほろほろと崩れていってしまってもったいない。もうちょっと赤身が多くて肉々しい方がいいですが、そこは個人の好みでしょう。ともかく宮崎牛をおいしく食べられたので満足です。
まだ少し時間があるので腹ごなしに展望デッキに上がってみます。
レストランからでもエプロン(駐機場)は見えますが、やはり仕切るものがワイヤーだけの展望デッキの方がよく見えます。南国らしい日差しと海からの風が…
とても暑い!
10月だというのに気温が29度もあって、宮崎が南国であることをイヤでも味わうことに。
展望デッキの片隅にでんと置かれているのは、2012年まで航空大学校で訓練に使われていたビーチクラフト・C90Aキングエア。きっとこの宮崎で実際に飛行訓練に使われていた機体なのでしょう。
航大は公立のパイロット育成学校としては日本で唯一の存在。たった108人という狭き門を通り抜けるため、受験者は7~10倍の倍率を勝ち抜かなければならないそう。この2年間こそ異常ですが、パイロットはいつだって人手不足。ちゃんと資格が取れればもう活躍は約束されたようなものです。
これといってやることもないので駅へ戻りましょうか。ガラス張りのエレベーターから下を見るとなんだかヒュンとします…
宮崎空港はこぢんまりとした場所だと勝手に想像していましたが、ターミナルは大きな建物でレストランもいくつもありました。宮崎駅までも電車で10分足らず、バスターミナルの「宮交シティ」までのバスもそこそこあって、宮崎県の玄関口として重要な役割を果たしているのが分かります。
■ のりもの13:JR九州・713系(宮崎空港→宮崎:6km)
設備の充実した空港ターミナルとは違って、JRの駅は改札手前の片隅にベンチがある程度で待合スペースがほとんどありません。
新千歳空港のようにパターンダイヤではなく不等間隔で発車するので、もうちょっと待合スペースがあってもいいんじゃないかといった感じ。ウンザリするほど暑い今日ではなおさらです。電車の発車5分前ぐらいまでは、ターミナル内の駅に近い出口付近にあるベンチにいた方が快適でしょう。
14:03発の宮崎ゆきで空港をあとにします。
これから乗る713系は1983年に2両編成4本だけが製造された試作車両。8両とも全て試作車を示す900番台が付番されましたが、2008年からのリニューアルで基本の0番台へと改番されています。車内は回転式リクライニングシートになっていて、普通列車としては格段に良い設備です。
>> つづく <<