2022年2月24日にロシアが始めたウクライナへの侵略戦争により、世界中に影響が出ています。21世紀の世の中にありながら思考回路が中世というロシア大統領には驚きあきれるばかりです。
日本国内にもロシアの侵略行為を「アメリカの陰謀である」などと声高に主張する人々がいて、開いた口が塞がりません。日本って平和な国ですね。
もちろんウクライナ側にもプロパガンダが存在するので全てを信じてはいけませんが、アメリカの陰謀というのはあまりにも荒唐無稽です。
ともあれ侵略戦争へのお仕置きとして主にアメリカとヨーロッパ各国が行った経済制裁により、ロシア経済は大きな痛手を被っていることでしょう。あさかぜは経済に詳しくはないので、趣味である「飛行機」の観点からロシアの置かれた状況を少し覗いてみます。
ロシア発着の国際線ですが、EU・アメリカ・カナダなどはロシアを本拠とする飛行機の乗入れや領空の通過を禁止しています。ロシアも報復としてそれらの国の飛行機を乗入れ禁止・通過禁止としているので、これらの国を直接結ぶ便は運航を停止しています。
乗入れ・通過を禁止し合っていない国の間では定期便が運航されているようで、UAEやトルコ、中央アジア経由であれば往来ができる模様。実際にエミレーツ航空のウェブサイトで確認したところ、1日2往復のドバイ~モスクワ便は運航を継続しています。
<エミレーツ公式サイトの運航情報によれば、ダブルデイリーのモスクワ便は運航を継続している様子>
日本や韓国は経済制裁に参加しつつも乗入れ・通過とも禁止はしていないので、現状では上空を通過することは差し支えありません。ただしANAや日本航空は「トラブルで緊急着陸した際に、交換部品などが調達できないリスクがある」、大韓航空は「現地での燃料補給ができない恐れがある」として、ロシア上空を回避するルートを選ぶか、そもそも運休としています。
一方、ロシアの航空会社に対しては、ロシア政府が「3月8日以降の国際線は、ベラルーシ以外に飛ばさないこと」と通達を出しました。表向きは「対外情勢の不安」としていますが、実際のところは卑屈な制裁逃れやバックレです。
どういうことでしょうか。
ロシア国内で運航されている民間機は980機あり、そのうち777機はリース機でさらにそのうち515機は外国の会社からのリース機です。
例えばロシア国営のアエロフロート・ロシア航空が「B777-300ERが欲しいなぁ」となったとします。飛行機は高額ですから、おいそれと一度にたくさんは入れられません。そこでリース会社の出番です。
リース会社はアエロフロートが欲しい仕様のB777-300ERを代わりに購入して貸し出します。アエロフロートはリース料を支払って、自社の飛行機として運航します。これが航空機リース。
<B777のような大型機は高額商品なので、なかなか自社で全て購入するのは大変。なのでリース会社から長期レンタルするのが一般的>
ロシアにとって問題なのは、先述したようにリース機の多くが外国の会社のもの、そして大きなリース会社は主に欧米の企業です。「リース会社が飛行機を返せと要求したなら航空会社は返さなければいけない」と国際的なルールで決まっていますし、返さない物件は差し押さえが必要です。
今回の経済制裁でリース会社は3月28日までに飛行機を返すよう求めていますが、ロシア政府は「リース料をロシアの通貨ルーブルで支払え。ルーブル払いを拒否されたら飛行機を返すな」と国内の航空会社に指示を出しています。ただの紙切れに向かっているルーブルでリース会社が支払いを認めるはずがありませんから、必然的に返却を拒否することになります。
とはいえ差し押さえようにも、たまたま国外の空港に飛んできていた20機ちょっとの飛行機は差し押さえられましたが、この情勢ではロシアもベラルーシにも入れず、差し押さえは難しい。つまりロシアは2国の外に出さなければ飛行機は差し押さえられず、使い続けられると考えているわけです。国家レベルの卑怯な「借りパク」です。
当然このような行為は信用を失うので、二度と飛行機をリースしてもらえなくなります。ウン十億円もウン百億円もする高級品を借りパクされたんじゃ、誰だって「絶対に二度と貸さねえ!」となりますよね。
ここまでの借りパク事案でも相当ヤバいのですが、さらにヤバいのはここからです。
経済制裁に伴い、大手メーカーの「Boeing ボーイング」「Airbus エアバス」「Embraer エンブラエル」はロシア向けの機体を納入停止にすると発表、同時に部品の供給も停止しました。メンテナンス用の部品すら手に入らなくなったわけです。
メーカーから取り寄せられないので香港のHAECOあたりから購入するつもりでいたようですが、中国側はこれを拒否したようです。「ロシアの味方をした」とHAECOも取引を停止される可能性があるわけですから、当然といえば当然です。
こうなると考えられるのは、壊れた部品を別の飛行機から持ってきて修理するニコイチ整備です。なお中古部品を使った修繕は普段から行われており、退役した機体から使える部品を外して売却するというビジネスも普通です。
ところが現状のロシアでは修理用の部品が手に入れられないわけですから、不正に召し上げている機体を部品取りにしてしまう恐れがあります。返還に応じなければ二度とリースしてもらえないのに、さらに借りパクした機体を勝手にバラすなど言語道断です。
まだあくまで可能性の話ではありますが…
<純粋なロシア製と言えるイリューシン・Il-76。写真は2006年に運用を開始した機体だが、基本性能は旧ソ連時代のままでクルーも5~6人が必要>
航空業界に限らず、輸送機関で最も大切な安全についても大きな不安があります。
航空会社は大きな整備を専門の会社に任せるのがここ最近の主流になりつつあります。整備・修繕・改修を専門に手がける会社のことを「MRO事業者(M=Maintenance, R=Repair, O=Overhaul)」といい、日本ではANAグループのMRO Japan、世界に目を向ければドイツのルフトハンザ・テクニーク(Lufthansa Technik)、シンガポールのSIAエンジニアリング(SIA Engineering)、香港のHAECOといった大きなMRO事業者がいくつもあります。
ロシア国営のアエロフロートもルフトハンザ・テクニークにMROを委託していたようで、当然それもできなくなりますし、国内のエアバス・ボーイング認定の事業者からもサービスは受けられません。
結局政府は「飛行機の整備ができる事業者は何でもいいから、国内の飛行機を整備しろ」という通達を出したようです。複雑化したエンジンやシステム周りを専門外の業者が整備するなんて、もはや最悪の結末が見えているようなものです。
冷戦期のソビエト連邦に逆戻りして、航空事故が起きてももみ消されていてわからないという事態に至りそうでなりません。
「国外へ飛行機を出すな」
「リース料はルーブルで払え」
「リース機は返却するな」
「整備はできそうなところにやらせろ」
これらは独裁的な国家元首の指示命令ですから、アエロフロートだろうとS7航空だろうと、答えは「はい」しか許されないわけです。そしてそのしわ寄せは必ずしも国家元首を支持しているわけではない国民のところへと行くわけで、これ以上なくふざけた話です。
ちなみに国家の横暴が原因でいながら、ロシア政府は「一連の制裁で救済できる航空会社は国営のアエロフロートだけ」と言っているとか。
アエロフロートの子会社オーロラはどうだかわかりませんが、S7航空やロシア航空ノードウィンド航空といった民間の航空会社は自助努力でなんとかしろというわけです。
はあ…?
めちゃくちゃすぎる…
航空業界だけ見てもこんな有様なのですから、国民の日常生活はもっと厳しいことになっていることでしょう。まともではない独裁者がいると、ウクライナのように因縁や言いがかりで侵略される国も出てくるし、侵略する側の国民も何もいいことがありません。過去の歴史が証明しています。
一刻も早く、気が狂った現ロシア指導層が崩壊してくれることを心から願ってやみません。
<国から「自分でなんとかしろ」と放り出されたS7航空。ロシア国内線ではシェア最大だが、国際的な信頼が失われては事業の継続は難しい…>
※2022年3月22日 本文中の誤記を修正(ロシア航空→ノードウィンド航空)
【参考記事】
旅客機500機「借りパク」へ! 経済制裁受けロシアがリース機返還拒否…どうするの? - 乗りものニュース
https://trafficnews.jp/post/116511
永遠に戻らない恐れ、ロシアのリース航空機1.2兆円-ABS市場動揺も - Bloomberg
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2022-03-09/R8GG91T1UM1401
中国、ロシアへの航空機部品の供給拒否=ロシア高官 - ロイター
https://jp.reuters.com/article/ukraine-crisis-russia-airlines-idJPKBN2L715A
ロシア政府、エアバス・ボーイング機の運用維持のために未承認の企業による整備等を行う事を検討か - スカイバジェット
https://sky-budget.com/2022/03/07/russia-may-allow-outside-firms-to-maintain-airliners/
Russia mulls nationalisation of aircraft to save Aeroflot - ch-aviation
https://www.ch-aviation.com/portal/news/113205-russia-mulls-nationalisation-of-aircraft-to-save-aeroflot