2014年の経営破綻(2回目)から紆余曲折を経てきたイタリアのフラッグキャリア「アリタリア-イタリア航空」の再建。1946年に設立された伝統とローマ教皇御用達という格式のある航空会社ですが…
華やかなイメージとは裏腹に経営状況はめちゃくちゃで、同時多発テロの影響を受けた2002年以降は黒字を計上したことはないといいます。
簡単に今までのグダグダを振り返ってみます。
2008年に1回目の経営破綻。
破綻するまで人員削減をごね続けた労働組合は7,000人に及ぶリストラ案を受け入れ、正常な状態へ戻ることが期待されましたが…
ちなみに労働組合があまりに反発するので、支援を行うつもりだった企業団が撤退するという事態も引き起こしています。
再建が始まったはずのアリタリアはズルズルと赤字経営を引きずっていきます。これもまた労働組合のコスト削減への強い反対があったようで、一向に良くなる気配が見えません。
2014年にUAE・アブダビを拠点とするエティハド航空がヨーロッパでの事業拡大を狙ってアリタリアに出資し、傘下におさめます。中東の潤沢なオイルマネーを背景にようやくアリタリアは飛躍的に発展する…
<ヨーロッパでの手っ取り早い規模拡大のためにアリタリアへ出資したエティハド。残念ながらその戦略は間違いだった様子>
かに思われた2017年、しびれを切らしたエティハドが出資を引き上げます。いくら地面からお金が湧いてきてもそれを還元されちゃたまらんと思ったのでしょう、ドイツのエア・ベルリンからも出資を引き上げ、そのまま2社はお金が回らなくなり経営破綻します。アリタリアは9年ぶり2回目の破綻。
エア・ベルリンは運航停止となってそのまま歴史から姿を消してしまいましたが、伝統と格式、さらには国を代表するフラッグキャリアであるアリタリアをみすみすつぶしてしまうわけにはいかないとイタリア政府は考えます。
<親会社と同じタイミングで破綻したアリタリア・エクスプレス。同社はアリタリアのリージョナル路線部門で、新会社には5機だけERJ-190(写真)が引き継がれる見込み>
当面は政府が金を投じつつ、新たな再建策を模索し始めますが、やはり現状を認識できない労働組合が出張ってきてリストラ案へ強硬に反対。支援企業が決まらないどころか、イタリア国民にまで「税金を投入し続けるぐらいならなくなってしまえ」などと言われるようになってしまいました。
2019年にアトランティア(高速道路・空港などのインフラ管理会社、イタリア政府出資)、FS(イタリア鉄道)、デルタ航空(アメリカの大手航空会社)、イタリア経済発展省の4者が手を組んで救済することがほぼ決定的となりました。折しもカタール航空が出資していたエア・イタリーが運航停止となったことで、むしろアリタリアはライバル不在の状況と好条件になったはずでしたが…
2020年にFSが事業計画の不一致を理由に撤退を発表、35%を出資するはずだった大口スポンサーがいなくなったことで再建計画はまた白紙へと戻ってしまいます。航空会社の国有化は認めないEUの法律にもそろそろ従わなければマズいですし、そうするとアリタリアは会社ごと解散せねばなりません。
いよいよ万事休すか、と考えられていましたが…
この状況で強運(?)が発揮されるところがアリタリアのすごいところ。
新型コロナウイルスの世界的な流行でどこの国も公的機関が航空会社の支援に乗り出し、ドイツ連邦政府がルフトハンザ・ドイツ航空に1兆円規模の支援を行うなど、航空自由化が大原則のEU域内でも例外ではなくなりました。アリタリアの経営体質はさておき、この情勢下では航空会社に喜んで出資しようとする民間資本はそうそうありません。ならばと大手を振ってイタリア政府がアリタリアの救済に回ることができるようになったというわけです。
2020年9月、国営の航空会社を新たに設立してアリタリアから航空機も含めて業務を移管させるという方針が策定され、10月に正式に承認されました。
新会社はITA(=Italia Trasporto Aereo(伊)、Italy Air Transport(英))とし、アリタリアから機材や人員を引き継いで運航にあたります。運航開始時点では会社規模は大幅に縮小して経営の建て直しを計りますが、将来的には営業規模の再拡大を狙う方針だそう。
新会社とすることでアリタリアが抱えていた債務を引き継ぐことなくまっさらな状態で始められるのもさておき、新会社に協力的な人を引き継ぐことで会社運営をやりやすくする狙いもあるのではと思ったり。ただアリタリアを扱ったYouTubeの動画を見ていると「労組はそのままらしい」とか「実態は何も変わらないらしい」というコメントも散見されるので、もしそうだとしたらまた同じことの繰り返しになりそうですね…
<A320は引き続き近距離路線の主力として活躍し続ける予定。まだneoシリーズは導入されていない>
ちなみに機材はしばらくの間コミューター路線にエンブラエル・ERJ-190(おそらく子会社のアリタリア・エクスプレスのもの)、短中距離路線にエアバス・A320、長距離路線にはB777-200ERと-300ERと絞り込み、使用機材数も90機程度まで減らすとのこと。
また長距離路線の機材にB787(もしくはA350)を導入し、ゆくゆくは長距離機材とA320の二本立てとなるという計画です。
<退役が予想されるアリタリアのA330-200。成田ではなじみ深い機材だっただけに見られなくなってしまうのは残念>
気になるブランド名ですが、ITAのまま進めるのかは何ともいえない雰囲気です。少なくともITAは競売にかけられる「アリタリア」のブランド名を落札するつもりでいるようで、新会社へ移行してもアリタリアのブランドが継続する可能性はあります。
一方でITAの設立方針が決まったときにブランド名を変更することもあり得るという話もありますから、アリタリアではない新ブランドを確立するまでの「つなぎ」という可能性も否定はできません。
いずれにせよイタリアの翼はようやく再建の道筋が見えたばかり。2021年10月14日にアリタリアは運航を終了し、翌日からITAが運航を担うことになります。お騒がせを続けてきただけに、今後ブランド名も含めてどのような展開になっていくのか気になります。
<B777-200ERに混ざって1機だけ在籍する-300ER。同型機のエンジンは他のB777シリーズとはほぼ別物なので保有するデメリットは大きいはずだが、アリタリアは続投させるつもりらしい>