中国・武漢で発生が確認され、瞬く間に全世界へ新型コロナウイルスが流行してから1年が経ってしまいました。健康はもちろんのこと、経済にも大きな大きなダメージを与え続けています。世界の情勢に特に影響されやすい航空業界は軒並み業績不振となり、数千億円規模の赤字となっている航空会社も珍しくはありません。銀行や国の支援を受けたり、もしくは破産申請をして民間の支援を受けつつ再建を目指すところも少なくありませんが、それらを受けられずに南アフリカ航空やイギリスのフライビーのように姿を消してしまったところもあります。
日本の大手2社も例に漏れず大赤字となり、全日本空輸(ANA)を傘下に持つANA HDは約5,000億円、日本航空(JAL)の所属するJALグループで最大2,700億円の純損失となる見込みです。2社とも稼ぎ頭である国際線の需要が蒸発してしまったのが理由です。積極的な路線拡大に打って出ていたANAは特にそのダメージが大きく出てしまいました。
こうした状況にANA・JALの2社を統合せよと主張する人たちが出てきました。あさかぜは経済学をかじったわけではないので、そうした「経済学者」が何を考えているのか、統合を主張することで何の利益があるのかは知りませんが、少なくとも統合を必要とする理由はさっぱりわかりません。
少し昔、2005年に日本航空と日本エアシステム(JAS)による、いわゆる「JJ統合」がありました。統合によるスケールメリットが生かせるどころか、雑多な機種の整備コスト、職場内の不和、コスト管理の甘々な元JAL、JAL以上の高コスト体質な元JAS…
その結果、行き着いたのが2010年の経営破綻です。
日本だけの話ではありません。いち早く航空自由化が行われたアメリカでは様々なエアラインが目先の事情で統合しては消え、またはさらに統合され…を繰り返しました。もとい今でも繰り返しています。
そうした歴史を学ばないのでしょうか?
<2011年4月、海外への売却を待つJALのジャンボたち。経営破綻の大きな理由にジャンボがやり玉に挙げられた>
2社の方向性も違います。
他社と連携出、自社でも積極的に需要を開拓していくスタイルのANA。
一方でJALは堅実な需要が見込まれる路線を開拓し、単体ではなんともいえない場所には他の航空会社と連携する保守的なスタイル。
そんな2社を混ぜ合わせたところでうまくいくハズがありません。社内がゴタゴタしている間に、立ち直った海外エアラインに顧客どころか会社もろとも取られておしまいです。
所属する航空連合も、ANAは「スターアライアンス」、JALは「ワンワールド」と違いますし、当然コードシェアなどで連携する航空会社も全くといっていいほど違います。ただの日本の航空会社ではなく、世界的な組織の一部なのです。
そうした一切の事情を考慮せず単に会社の規模だけで統合を論ずるのならば、その議論には一考の価値もありません。
こう書くと、韓国の例を挙げてこられそうです。
と。確かに事象としては同じかもしれませんが、そもそもの背景が違います。
まず買収されるアシアナは経営状態が元からかなり悪くなっていました。親玉の錦湖(クムホ)産業という財閥もさすがに支えきれなくなり、現代産業開発(HDC)へ売却することが決まっていました。それが今回のコロナ騒ぎでHDCも買収する余裕がなくなって破談となり、アシアナは誰か資金を出してくれないと存続できない状態になっていたのです。
ちなみに大韓航空もしばらく業績が低迷しており、慢性的な赤字体質でした。つまり韓国の大手2社の統合は
「元から経営の良くない会社が、ほとんどつぶれかけの会社を買収する」
という悲惨な展開であり、航空需要が回復すれば業績の回復も見込まれる日本の大手2社とは全く事情が異なるわけですから、比較の対象とはなり得ません。
もちろん利用者としてもフルサービスキャリアが1社に絞られては困ってしまいます。もし1社が独占状態で、しかもLCCが飛んでいない都市へ行こうとしたら…?
高い料金を支払っているのにロクなサービスも受けられない、そんな有様になるかもしれません。適度な競争がなければサービスは良くなりませんから、少なくとも現在の日本では大手2社が共存してくれなければ困るのです。
「統合すれば世界第○位」といったランク付けをする人もいますが、何か意味がありますか?
ランキング上位にはいなくてもフィンランドのフィンエアーのように立地条件を生かして強い競争力を発揮するところもあります。重要なのは会社のデカさではなく、どう自社の存在価値を高め、ブランドを磨いていくかを示している良い例です。