現地時間2021年2月20日、アメリカのデンバー発ホノルルゆきのユナイテッド航空UA328便がエンジントラブルを理由に緊急着陸しました。機材はBoeing 777-200、クルマのナンバープレートに相当する登録記号はN772UA、1995年に運航を開始したものです。
<事故の当該機であるN772UA。グアム便などに投入されていたので成田でも見かける機会があった。2015年8月撮影>
離陸の数分後にトラブルが発生、機体右側にある第2エンジンの内部が露出し、後ろ半分で炎が燃えさかっている光景は日本のテレビでも繰り返し放送されました。
知識の上では片側のエンジンだけで安全に離着陸できることを知っているとはいえ、あの光景を実際に見ていたら「自分は死んだ」と思わざるを得ません。ケガ人もゼロだったのはこの上ない幸運でしたし、パイロットの冷静な判断と的確な操縦があってのことです。
UA328便の事故を受け、事故直後の21日(日本時間)中に国土交通省は一部のボーイング777型機の運航停止を指示、航空行政のドンであるアメリカのFAAもEAD(緊急耐空性改善命令)を発出し、対策が施されるまで事実上全世界で運航停止となっています。
日本国内で運航停止の対象となるB777は全日本空輸(ANA)と日本航空(JAL)が保有。両社とも国内の大幹線に投入している機材だけに影響は大きそうです。JALではコロナ禍でダブついている国際線用のB777を充当してしのぐようです。
ところで、
同じB777でも飛べる機体と飛んじゃいけない機体がいるのはなぜでしょう?
B777は全部危ないわけじゃないの?
飛行機ならではの事情を見てみると理由がわかります。
Boeing 777では大きく分けて3種類のエンジンが選べました。
・(米)ゼネラル・エレクトリック社製 GE90シリーズ
・(米)プラット・アンド・ホイットニー社製 PW4000シリーズ
・(英)ロールス・ロイス社製 Trent800シリーズ
今回のUA328便、また2020年12月4日に発生した日本航空JL904便のエンジントラブルは共にPW4000の装備機でした。事象も「ファンブレードの破損」というそっくり同じもの。ユナイテッド機、JAL機共に20年以上のベテラン機という点も共通していて、立て続けに2度も同じ内容のトラブルが起きるのはたまたまとはいえないわけです。
一方でGE90とトレント800では同じトラブルの報告はありませんし、メーカーごとに部品の構造や材質が異なりますから、現時点では一緒にする必要は無いという判断と思われます。JALでは国内線向けの機材にはPW4000、国際線向けにはGE90を採用していますので、座席数や仕様の面倒はあれど安全性には影響はありませんからGE90を装備したB777で運航を継続するというわけです。
決して「安全を軽視してトリプルセブンを使っている」ということではありませんのでご安心を。
ちなみに全世界でPW4000シリーズを装備するB777は128機。そのうち今回トラブルのあったユナイテッド航空は24機、ANAは19機、JALは13機を保有しているとのこと。安全の確認と対策が施されるまで、これらの機体は乗客を乗せて飛ぶことはありません。
<運航停止の対象となっているP&W製PW4000。外見だけでは他の2社のエンジンとは見分けがつきづらい>
加えて2021年2月までの間にBoeing 777シリーズは他社製を含めてエンジンの不具合による墜落事故は起こしておらず、総合的に見て安全性のとても高い飛行機であることを申し添えておきます。
なお蛇足ですが、航空自衛隊でも導入が今後進んでいくKC-46というボーイング製の空中給油機があります。ベースとなる機体はB777より小さなBoeing 767-200ERで、エンジンは同じPW4000シリーズを搭載しています。
こちらは同じPW4000を名乗ってはいても内部構造がB777に搭載しているものとは異なるタイプなので、影響は出ないようです。
参考文献・動画:
FAA、PW4000のファンブレード検査指示 ユナイテッド機トラブルでAD発効 - Aviation Wire
【航空無線】ユナイテッド328便 エンジン部品脱落 [動画] - 機場空論