さて、「やくも15号」で着いたのが17:17、お目当ての「サンライズ出雲」が発車するのは18:51。出雲市の滞在時間は1時間半しかありません。
泊まり明けの疲れを癒しに、まずは出雲市駅から歩いてすぐのところにある「出雲駅前温泉 らんぷの湯」に入ります。「サンライズ出雲」にもシャワー設備はありますが、使えるのが計20名分程度と競争率が高い上に、シャワーカードを買えてもブースが空くまで待たされることもあるそうなので、乗る前に済ませておくのが気持ちの上でも楽。
大きくはない温浴施設ですが露天風呂も備えてなかなか本格派。湯船の底が見えない真っ茶色のお湯が特徴的です。鉄分を豊富に含むとこうなるそうで、体をほぐすのと同時に貧血にも効果があるとされています。ちなみに露天風呂には壺湯と見せて冷たい水風呂が置いてあるので、間違えて入ろうとするとビックリしますから要注意!
濃厚な茶色いお湯で、体を拭いたタオルも茶色くなっていました。「らんぷの湯」に行くときは濃い色のタオルを持って行った方がよさそうですね。
体を温めてほぐしたら、次は夜ご飯の確保です。出雲そばだラーメンだといくつもありますが、西日本に来たら気になるのは広島拠点のコンビニチェーン「ポプラ」の「ポプ弁」です。他のコンビニチェーンとは違うお弁当の提供の仕方が特徴なのですが、西日本側に店舗が集中しているのでなかなか食べる機会がありません。
駅前のポプラに入ったら、期待通り「ポプ弁」がありました。ポプ弁は並んでいる段階ではご飯が中に入っていません。お会計の時にご飯の量を伝えると、お弁当を温めてから炊きたてのご飯を盛り付けてくれます。
うんうん、なかなかずっしりとした重さになりました。車内で開けるのが楽しみです。
1時間あまりはあっという間に過ぎ、発車15分ほど前にホームへ上がってきました。「サンライズ出雲」に車内販売はない(飲料の自動販売機のみ)ので、乗車中に飲食するものは乗車前にあらかじめ確保する必要があります。乗車前には時間に余裕を持つようにしましょう。特に車内でゆったりとお酒を傾けたい、なんて人はなおさらです。
発車5分前の18:46、「サンライズ出雲」が入線。車両限界いっぱいのサイズを7両つなげた285系の姿は壮観です。
しかし東京まで12時間半もかかる列車だというのに、発車5分前の入線というのはいささか慌ただしい旅立ちに思えます。部屋に入って上着を脱いだり携帯電話の充電器を引っ張り出しているうちにもう発車時刻です。
今日の宿はシングル。285系「サンライズエクスプレス」の中で最も部屋数の多いクラスで80室が用意されています。鉄道車両ゆえに広さには限界がありますが、一晩を過ごすには充分な広さです。
車両の真ん中に通路を通しているので、ベッドの向きは線路に並行。2階席は窓が湾曲しているので寝転がると空を見上げることもできますが、外から覗かれ放題になってしまうので田舎の区間でやることをオススメします。
松江を出たところで夜ご飯にしましょう。出雲市駅前の「ポプラ」で購入してきたポプ弁をいよいよ開けるときです。
中身が漏れないようにちゃんとパッキングしてくれますし、ご飯がたっぷり入っているのでふりかけも添えられています。至れり尽くせりです。
ご飯を大盛りにしてもらったのであふれんばかり。チキンの照り焼きとハンバーグが入って肉々しい中身になっています。まだ温かいのでおいしい!コンビニのお弁当のクオリティもこうやって抜きん出て良くなったものもあるので、「列車移動するから駅弁」という気分には必ずしもなりません。
冷たくてもおいしく食べられるように作ってある駅弁ももちろん魅力的ですが、やはり温かく食べられるならそれに越したことはありません。
最後の一粒までおいしく全部いただいて夜ご飯はおしまい。
早めにトイレに行っておきます。誰も乗っていない個室はドアが開け放たれているので外から覗くことができます。立ち入るのはもちろん厳禁ですよ。
一部の車両の平屋スペースに設置されているのは「シングルツイン」。1人個室にも2人個室にもなる特徴的な寝台で、1人個室が主体となる「サンライズエクスプレス」の中では数少ない2人利用が可能な個室になっています。1人で利用するならかなり広いですねぇ。
伯備線に入って山間に入ってくると民家も少なくなり、外はほとんど明かりがなくなりました。
部屋を暗くしてベッドに横たわって空を見上げてみますが…意外と星空は見えないものですね。通過する駅だったり踏切だったり、時々強い光が目に入ってくることもあって目が慣れないのも理由かもしれません。
30分ほどで諦めて晩酌へ移行します。何が楽って、ちょっと強めのお酒を飲んで眠くなればそのまま倒れ込んで眠ってしまうことができるというところ。寝過ごすことにおびえながら家に帰らなくていいのですから!
22時半頃、岡山駅で「サンライズ瀬戸」の後ろに連結し、いよいよ列車は堂々の14両編成で東京へ向かいます。真夜中に三ノ宮や大阪に停車しますが、眠る人もいるため岡山を出ると翌朝沼津付近まで車内放送はありません。
途中大阪で騒がしいヤツが乗ってきて目が覚めてしまいましたが、それ以外は心地よい走行音と振動でとてもよく眠れました。時代の宿命とはいえ、寝台列車という快適な移動ツールが「サンライズ瀬戸・出雲」を残して消滅してしまったのは残念でなりません。
2月の時と違い、列車は定刻通り首都圏へ入ってきました。大幅に遅れると手前の品川が終着駅となってしまうパターンもありますが、今日はその心配はなさそうです。
まもなく朝ラッシュへと突入する横浜駅ではすでに多くの人々が東京方面の電車を待っています。無表情に窓の外を眺める出勤途中の男女を尻目に、サンライズエクスプレスの乗客は優雅にベッドへ腰掛けたり、何なら横になって東京駅まで過ごすことができるのです。なんともいえない優越感。
広い河川敷の多摩川を渡るといよいよ東京都へ入り、出雲市からおよそ12時間半の列車旅もいよいよあと20分ほどです。忘れ物をしないよう身支度を調えながら最後までこの快適な空間を味わいます。
7時14分、定刻通り東京駅に到着しました。到着と同時に個室の鍵が自動的に解錠されます。おそらくこの後駅員や車掌が車内で寝過ごしている乗客がいないか確認しに来るのでしょう。
ちなみに285系は7両編成5本が製造され、3編成がJR西日本(0番台)、2編成がJR東海(3000番台)の所有となっています。両者は全くもって共通の仕様、というよりほとんどJR西日本の仕様となっていて、JR東海が所有する編成でも整備は全てJR西日本の後藤総合車両所で行われますし、運用も共通です。JR西日本だけが車両を保有すると線路使用料などの清算が面倒になるからというのが理由でしょう。
このあと列車は品川駅の近くにある留置線へと回送されて車内の清掃や整備が行われます。そして夜22時発の「サンライズ瀬戸・出雲」となってまた出発していきます。
東京側でうまく編成を入れ替えるため、必ず「サンライズ瀬戸」が先頭に立ちます。そうすれば「瀬戸」として到着した編成が「出雲」として折り返すことになり、整備拠点のある出雲市へと戻ることができるのです。
こうした回し方は「ブルートレイン」と呼ばれた客車時代にも行われていました。2009年まで存在した末期の頃の「富士・はやぶさ」は必ず「富士」側が先頭でしたし、さらにさかのぼれば別々の編成で運行されていた頃の「富士」「はやぶさ」も東京側で車両を入れ替えていました。「富士」「さくら・はやぶさ」・「瀬戸」「あさかぜ(下関発着)」・「みずほ」「さくら」といった具合に、珍しいやり方ではなかったのです。それぞれ別の車両基地で細々と管理するよりは1つの車両基地でまとめて管理をした方が効率的ですからね。
懐かしい思い出がよみがえってきました。願わくば今の記憶・知識を持ったまま、1990年代初頭までタイムリープできたらどんなにいいことでしょう…!
朝7時台だというのに新幹線の改札口はずいぶん空いています。そういえば今日から新幹線はほとんどの臨時列車は運休となっているのでした。東海道新幹線の改札口も昨日の朝よりさらに人が減っている気がします。日本の大動脈でこの光景です…にわかに信じられません。
いつもであれば3~5分おきに頻発している「のぞみ」は10分近く間隔を開ける時間もあります。年が明けたときにはまさかこんな大騒動になるとは思ってもみなかった新型コロナウイルスの感染拡大は、いったいいつまで続いていくのでしょう。
先月の札幌の光景といい今回の新幹線の光景といい、ここまで来るとさすがに不安ばかりが募ってきますね…