ホテルをチェックアウトしてきました。頼んでおけば駅まで送ってくますが、歩いても15分ぐらいなので街並みを眺めながら散歩しましょう。
駅前の通りも年季が入った雰囲気です。酒屋や電器店など地元に根づいたお店も軒を連ねており、ただの観光客向けの街ではないことがわかります。
城崎温泉駅のコンクリート造りの重厚な駅舎は1926年に完成したものです。やはり1925年の北丹大震災で駅舎が被災したため建て直されたもので、1949年のリニューアルを経て今の姿になっています。2005年にそれまでの「城崎」から「城崎温泉」に駅名が変更されました。
「北丹大震災」というのはこのあたりの呼び名だそうで、Wikipediaには「北但馬地震」というタイトルで記事になっています。M6.8、最大震度6という現在から見てもかなり大きな地震で、地盤の強くない城崎では死者283人を出す大きな被害を受けたと言います。
この地震をきっかけに街の強靭化が進められ、あの温泉街の景色は出来上がったのでした。美しい街並みの背景には辛く悲しい過去があったわけですが、城崎の人々はそれをバネにして立ち上がってきました。
兵庫県北部を拠点とする全但バス。
その後ろ側に見える大きな瓦屋根は外湯の1つ「駅舎温泉 さとの湯」です。営業時間は13:00〜21:00(月曜定休)で今日は残念ながら立ち寄れませんが、時間が合えば列車の待ち時間で入ってくることも可能です。せっかくなら一泊したほうが城崎温泉の雰囲気は楽しめると思いますけども。
いよいよ城崎温泉をあとにして帰路につきます。
昨日豊岡から乗ってきたのと同じ289系ですが、これから乗るのは特急「こうのとり」。2011年までは「北近畿」を名乗っていた列車で、運転区間は新大阪〜城崎温泉間。昨日の「きのさき」は京都発着の列車名です。また京都から福知山を経由して天橋立などを結ぶのは「はしだて」、京都〜東舞鶴間は「まいづる」と運転系統によって列車名が分けられています。わかりやすいんだかわかりづらいんだか…
ちなみにこの車両、683系4000番代の大量投入で「しらさぎ」系統から玉突きで追い出されてきた車両で、元々683系2000番代を名乗っていました。381系などの国鉄型車両を置き換えるための直流専用車両として289系と形式を改めましたが、ほとんどの車両は交直流機器を残しているようです。現に2本ばかり683系に復帰しているのもいたりして、JR西日本らしいやり口は健在です。
一方で半室グリーン車に改造された編成は交流用機器を取り外したものもいるらしく、その車両はおそらく最後まで289系として使命をまっとうすることになるはずです。
ちなみに車両の連結面を覗いてみると、うっすらと元の「クモハ683」の数字が浮いているのが見えます。
城崎温泉を出るとしばらく円山川に沿って走ります。川の対岸に見える茶色い建物が「玄武洞ミュージアム」で、その目の前にある船着き場から玄武洞駅の目の前まで渡し船を出してくれるそうです。ただ大きな船ではないので川が荒れたら当然出せませんし、前述の通り玄武洞駅を発着する列車は1〜1時間半に1本の普通列車だけなので、やはりクルマで行くのが無難です。その道もだいぶ狭いそうですが…
城崎温泉から1時間以上かかって福知山に到着しました。意外と遠いものですね。
福知山ではうまく接続ダイヤが組まれており、大阪・京都・城崎・舞鶴・宮津からそれぞれやってきた列車が一同に介して接続できるようになっています。丹鉄は時間帯によって特急「たんごリレー」(写真左)が接続するパターンも。北近畿における一大ターミナルです。
福知山を出ると右方向に分かれて福知山線へと入っていきます。篠山口までは谷沿いに敷かれた線路を走るため、カーブが多くスピードがなかなか乗りません。
篠山口を出ると視界の開ける場所が増えてきます。篠山口から南側は「JR宝塚線」という愛称で案内されるようになり、京阪神地区の都市近郊区間「アーバンネットワーク」に組み込まれたエリアです。
線路も複線になって概ね毎時2本の普通列車(途中から快速などに変更)と1本の特急が運転されるようになります。
車庫を備える新三田を通過し、三田からはだんだんと都会の景色になっていきます。本数も増えていよいよ都市部へ戻ってきた感じ。なお都営地下鉄の三田(みた)と同じ字を書きますが、こちらは「さんだ」と読みます。
写真はすでに宝塚を通り越して伊丹市内です。右側の対岸には伊丹空港が隠れており、距離的にみればJRの伊丹駅は伊丹空港の最寄り駅です。ただ実際に敷地の反対側にあるターミナルまで歩くにはかなりの覚悟が必要で、大回り必須のため徒歩1時間ぐらいはかかるようです。市バスでも15~30分かかるわけですから…
尼崎駅の手前で急なカーブを描き、JR宝塚線は高架橋でJR神戸線の線路の間に割り込んでいきます。
高架橋に上がる前のカーブ付近にあるのは2005年4月25日に発生した「JR福知山線脱線事故」のまさにその現場です。
このカーブは当時時速70kmの速度制限がかかっていましたが、事故列車はそれを46km/hもオーバーして突入し、曲がりきれず横倒しになりながら線路を外れてそばにあったマンションの1階駐車場へと突入してしまいました。1~2両目は中間車両に押しつぶされて箱形の原形をとどめないほどまで破壊され、乗客106名と運転士が亡くなり、562名が負傷するという戦後最悪レベルとなる鉄道事故となりました。
運転士の不適切な運転操作が直接原因だったのは明らかですが、運転士を無茶な運転に追い込む原因になった会社の体質なども含めてJR西日本という組織のあり方が強く問われた事故であったことは記憶に新しいところです。
事故に遭われた方の手記にリンクを張っておきますが、ショッキングな描写もあるのでご留意を。ただあさかぜのような鉄道に従事する人にとっては目を背けてはいけない現実でもあります。
事故の現場となったマンションはJR西日本が買い上げ、現在は「祈りの杜 福知山線列車事故現場」と慰霊施設になっています。
城崎温泉からおよそ3時間、終点の新大阪に到着しました。ここからまっすぐ帰れば東京まで2時間半ですが、まだ14時半ですしまっすぐ帰るにはちょっと早い。せっかくですからもう1つ乗りたい列車に乗っておきましょう。
昨日は103系に乗りましたが、JR西日本では未だに201系も現役。しかも貨物線を転用したとはいえ新規に開業したおおさか東線に投入されているのですから驚きです。新線だから新型車を入れるというのは勝手な思い込みでした…
2008年に大和路線 久宝寺~JR東西線 放出(はなてん)までの区間が先行開業し、2019年3月に残った新大阪~放出が開業して全線開通となりました。
一応「新型車両」への統一がアナウンスされていて、2020年の発表ではアーバンネットワーク各線で運用されている221系がやってくるとのこと…確かに更“新”はされているものの、純粋な新車が入る日は来るのでしょうか。
ところで乗ろうとしているのは201系ではありません。新大阪から地下鉄御堂筋線でなんばへ抜けて一旦遅めのお昼ご飯とします。
駅を出て商店街の方向へ。
大阪へ来たらあさかぜがどうしても食べたくなってしまうのが串カツでも肉まんでもなく「金龍ラーメン」です。メニューはラーメンかチャーシュー麺のみ、スープはちょっときつめの豚骨だけ。24時間営業が基本で朝からガッツリとラーメンを食べられる素敵なお店です。
さすがにコロナ禍の情勢で24時間営業とはなっていないものの、ちゃんと昼間は営業中。またご飯と薬味(ニラ・キムチ・ニンニク)は客が勝手に取り分けていくスタイルでしたが、店員さんに出してもらうやり方に変わっていました。とはいえ引き続きご飯と薬味はおかわり自由のようですから、抜群のコストパフォーマンスには変わりありません。
この薬味のニラの辛いこと!キムチより辛いんじゃないかというぐらい。だがそれがラーメンにもご飯にも合うのでいくらでも食べられてしまいます。
お腹いっぱい大満足となったところで近鉄の大阪難波駅へ降りてきました。もちろんここから乗るのは一昨日に続いて「ひのとり」、そして今日は上級クラスの「プレミアムシート」を奮発します。
レギュラーシートでも満足度はかなり高かったので、プレミアムへの期待は否が応でも高まります。
他の車両より大柄なプレミアム車両はひのとりと「PREMIUM SEATS」のロゴがお出迎え。デッキから客室を仕切る扉にも一般客お断りのメッセージが入っています。
車内は上級クラスにふさわしい1+2の3列配置。ベージュ色の革張り大型シェルシートが広い間隔(シートピッチ1,300mm)で並ぶ姿には圧倒されます。シートは電動リクライニング、レッグレストも電動で、ヘッドレストも好みの位置に調整可能。もちろんコンセントも完備。耳元についているのは手元を照らす読書灯です。一方で頭上の荷棚はレギュラー車両よりも小さめで、機内持ち込みサイズのキャリーケースを載せられなくはないもののちょっと不安になる大きさ。
そこでデッキには無料で使えるロッカーが備え付けられています。自身の所持する交通系ICカードを鍵として使える高機能なもので、キャリーケースはもちろんスーツケースも悠々と収まる大きさです。
ご覧の通り客室には階段を上がらなければいけないので、乗車の際に大きな荷物はさっさとロッカーに預けてしまう方が楽です。
往路で使ったコーヒーやお菓子の自動販売機もこのようにデッキに並んでいます。交通系ICは使えないので100円玉を用意するか両替機で両替しましょう。
一昨日と同じくカッコつけてコーヒーを飲みながら車窓を楽しみます。一段高いハイデッカーからの眺めは特別感があって気持ちのいいものです。
「ひのとり」のプレミアムクラスでは前面展望前面展望も楽しめます。今までの「アーバンライナー」でも見られましたが、ひのとりになって視点が高くなったのでより遠くまで見渡せる楽しみがあります。
ただ窓側席は運転席のピラーがあって意外と見づらいので、本格的に前面展望を楽しみたいのであれば真ん中のB席を選ぶと良さそう。
青山峠を越え、伊勢中川の短絡線を渡って大阪線から名古屋線へと移動します。
△を描くデルタ線の真ん中には、近隣施設の広告に混ざって鉄道系YouTuberスーツ氏の顔写真もありました。
鉄道マニアが堂々と顔を出して鉄道のことをあれやこれと熱く語るなんて一昔前でなくても奇特な存在として叩かれてもおかしくないところですが、スーツ氏は完全に市民権を得た感じはありますね。知名度を生かして鉄道マニアが見そうな所に広告を出し、さらにYouTubeでの再生数を上げて収益を向上させる。よく考えられています。
大阪難波から2時間、終点の近鉄名古屋に到着しました。快適すぎてあっという間でしたね…
名古屋~大阪間を移動する機会があるのならば絶対に1度は乗ってみて欲しい列車です。運賃・特急料金・ひのとりプレミアム料金を合わせて5,240円と「のぞみ」の普通車指定席と比べれば1,400円程度安いに過ぎませんが、3倍の時間をかけるだけの価値は十二分にあるとあさかぜは感じました。
近鉄特急の花形である名阪甲特急を担うにこれ以上なくふさわしい車両です。
もう名古屋へ戻ってきてしまったらあとは東京に戻るしかありません。
ホーム上にあるきしめん屋で冷やしかき揚げきしめんを大急ぎでかき込んで乗車口へ急ぎます。帰りは「のぞみ」の直後に発車する「ひかり」を選んでみました。
この列車、名古屋から新横浜までの停車駅はなんと豊橋だけというやけに足の速い「ひかり」です。実際に先行する「のぞみ」が東京まで1時間37分で走るのに対し、この「ひかり」は4分の差しかありません。その差のために210円高い料金を払うかどうかは個人の自由ですが、たまには新幹線の時刻表をじっくり眺めてみるとこうして面白い発見があったりします。
案の定車内はガラガラでした。先行の「のぞみ」も混雑といえるほど乗ってはいませんでしたが、この「ひかり」に比べればだいぶ乗っていた方です。1両に10人も乗っていないなら缶のハイボールを開けてもひんしゅくは買わなそうです。
新幹線と言えばなめらかに走り抜けるイメージがなんとなくありますが、東海道新幹線はカーブでの遠心力が他の新幹線よりも強く感じられます。2015年に最高速度が270km/hから285km/hに引き上げられた際、N700系シリーズの車体傾斜装置の機能を強化するのと同時に遠心力の制限を緩和させた、つまり乗客がより強い外方向へのGを受けるようにしてスピードアップを実現させた、という話を雑誌か何かで読んだのですが…情報源が思い出せませんでした。
ついに旅の終わりである品川まで戻ってきてしまいました。向かい側の下りホームには明日から待ち受ける現実をあざ笑うかのように最新型のN700Sが停車していました。いったいいつになったらN700Sに乗れる日が来るのやら…
誇らしげなSupremeのロゴを横目に見ながら横須賀線のホームへ向かうことにしましょう。