https://www.asahi.com/articles/ASN7Z2T11N7ZUHBI004.html
特に「日航ジャンボ機墜落事故」と呼ばれることの多い日本航空123便墜落事故の発生から8月12日で35年。良くも悪くも人々の印象に残る「ジャンボ(機)」は空の輸送に大きな革命をもたらし、世界でも日本でも経済を支えた功労機です。B747を無くして飛行機の歴史を語ることはできません。
それほどまでの「ジャンボ機」とは何だったのか、せっかくなので簡単に系譜を振り返ってみましょう。
■ 開発計画
開発計画が持ち上がったのは1960年代のこと。当時はBoeing 707やDouglas DC-8など、せいぜい200席ぐらいまでの旅客機しかありませんでした。しかし航空需要は急速に延びており、便数を裁く空港も限界に来ているところがありました。加えて当時の飛行機のエンジン音は今よりもはるかに騒々しいものでしたから、空港を拡張して便数を増やすというのはすさまじい反発に発展しかねません。
いくら需要が伸びているとはいえ他の飛行機の倍以上の大きさですし、しかも超音速旅客機の開発もスタートしており、音速を超えない巨人機は早々に時代遅れとなってしまうかもしれません。
折しもボーイングは同じアメリカのロッキードと大型の軍用輸送機の受注を競った後で、設計が流用できるので受注失敗も補えます。元の設計があったおかげで、たったの2年ちょっとというスピードで就航までこぎ着けました。
<成田空港そばの航空科学博物館に展示されている747-200Bの機首部分。塗装は試験機のものを再現しており、発注者となった各航空会社のロゴマークが入る>
■ -100型(だっしゅ100がた)
最初期はナンバリングはありませんでしたが、発展型の登場でのちに-100型とつけられます。早速パンナムがニューヨーク~ロンドン間の大西洋横断路線へと投入します。日本航空も太平洋を横断する路線へ投入しますが、初期型は航続距離が足りず太平洋をひとっ飛びできないという欠点がありました。
全幅×全長×全高:59.6×70.7×19.3m
離陸重量:333,400kg
航続距離:8,856km
座席数:366席(3クラス)
初就航:1970年1月
製造機数:205機
<JALの747-100型の機内を再現した模型。2階客室はファーストクラス向けのラウンジとして使われたり寝台が置かれたりしていた>
■ -200B型(だっしゅ200びーがた)
-100型の各部を強化して、より多くの燃料とパワフルなエンジンを載せられるようにしたのが-200B型です。元々「747B型」として設計が始まったので、ナンバリングが行われてもBというアルファベットは残ったままです。いわゆる「クラシックジャンボ」と呼ばれる中では標準的なモデルで、日本航空(JAL)、全日空(ANA)が導入して日本でもポピュラーな存在となりました。
2020年現在で使われているアメリカの大統領専用機VC-25もこの-200B型をベースに作られています。
-200B型から貨物型も設定され、Freighter(貨物)から取って-200F型と呼ばれます。特徴はなんと言っても機首にある「ノーズカーゴドア」。コクピットの下からガバッと上に開くようになっていて、側面の貨物ドアからは積めない長い貨物を積むことができます。コクピットが2階部分にある747ならではの機能で、元々の輸送機の設計が生かされています。
なおコクピットがある分、高さ方向は側面のドアの方が余裕があります。そのためノーズカーゴドアを使う頻度は高くなく、めったに見られるものではありません。-200F型は日本では日本貨物航空(NCA)が導入しました。
全幅×全長×全高:59.6×70.7×19.3m
離陸重量:374,850kg
航続距離:10,408km
座席数:366席(3クラス)
初就航:1971年6月
製造機数:393機
<アメリカの大統領専用機「VC-25」。エンジンなどは異なるがベースは747-200B>
■ -SP型(えすぴーがた)
-100型が当初の想定通りの性能を実現できず、-200B型も航続距離を伸ばしたとはいえアメリカ東海岸のニューヨークから日本の東京へはノンストップで太平洋を渡ることができません。太平洋を横断する便はアラスカのアンカレッジを経由して燃料を補給していました。
他社との競争で優位に立ちたいパンナムがさらなる長距離モデルを要求し、実現したのが "Special Performance" を冠したSP型です。
全長を-100に比べて14mも縮め、航続距離を12,000km以上に伸ばしました。これによりニューヨーク~東京間のノンストップフライトを可能にするスペックを手に入れました。一方機体を短くしたせいで300人未満しか乗せることができず、コストパフォーマンスはいまひとつなものに…
採用する航空会社は少なく失敗作のように見られがちですが、アッパーデッキ(2階客室)を主翼にかかる位置まで伸ばすと空力性能が良くなり、航続距離を伸ばせることを発見した、実はとても意味のあったモデルです。
全幅×全長×全高:59.6×56.3×19.9m
離陸重量:312,600kg
航続距離:12,325km
座席数:276席(3クラス)
初就航:1976年4月
製造機数:45機
<他のモデルと比べると明らかにずんぐりとしたSP型。2020年現在において世界で飛べる状態にあるのはおそらく数機。写真はサウジアラビア王室の元国王専用機>
■ -300型(だっしゅ300がた)
747SPでアッパーデッキを伸ばすと空力性能を向上させられることが発見できました。これをうけ、アッパーデッキを従来のモデルより約7m伸ばしたのが-300型です。空気抵抗が減少したことで巡航速度の向上と航続距離の延長が実現できました。
アッパーデッキが長くなったことで座席数を10%も増やすことができるようになり、3クラスでの標準座席数は412席まで増えました。日本航空が導入した国内線用の機材では2クラス483席、さらには全てエコノミークラスで584席という絶大な輸送能力を見せつけます。
旅客型モデルとしてはほぼ完成形になった-300型ですが、まもなく後継の-400型の開発がスタートしたことで短期間の製造に終わります。しかし-400型の機体はほぼ-300を踏襲したものですから、この後に続く「ジャンボ」空前のヒット作は-300なしには生まれなかったともいえます。
全幅×全長×全高:59.6×70.7×19.9m
離陸重量:374,850kg
航続距離:10,463km
座席数:412席(3クラス)
初就航:1983年3月
製造機数:81機
■ クラシックジャンボまとめ
当初ボーイングは「人は超音速機で移動するようになるから、747は貨物機に簡単に転用できるようにしよう」と考えていましたが、結局自社での開発も含めて超音速機は普及せず、延びていく航空需要に合わせてジャンボがなくてはならない存在へとなっていきます。
また「ジャンボ」という世間の愛称を「鈍重なイメージを与える」として「Super Jet スーパージェット」なんて呼び方を広めようとした時期もあります。そのイメージ戦略はさっぱりうまくいきませんでしたが、747の普及や人気の高まりを受けてボーイング自身が「ジャンボ」という愛称を使うようになりました。
そして内外ともに大きく進化した「テクノジャンボ」こと747-400型が生まれてくることになりますが、長くなってしまったので次回以降としましょう。
<機首部分「セクション41」を見上げる。国内でジャンボの実機を展示しているのは航空科学博物館だけ。機内は有料で見学可能>
参考文献:
一般財団法人 日本航空機開発協会「主要民間輸送機の受注・納入状況(2020年6月末現在) Embraer2020 Q2発表分を追加版」 http://www.jadc.jp/files/topics/90_ext_01_0.pdf (2020年8月14日16:30閲覧)