1989年、新しいジャンボの試験機が空を飛びました。その名も Boeing 747-400 。
機体の見た目は1981年にデビューした-300型とほとんど同じで、長い主翼の先端に上向きの小さな翼が付け足されたぐらいにしか見えません。しかし中身は今までのジャンボとは全くもって別物になっていて、むしろ従来のジャンボとは見た目しか似ていないと言っても大げさではありません。
そして進化した-400型からは様々な用途に合わせた派生型も数多く誕生しています。747シリーズ最大のベストセラー機を観察していってみましょう。
● 胴体
翼の付け根部分の形状を改良した以外は-300型と同じ。座席間隔を詰めれば2階席部分だけで70席が配置できます。
● 主翼
より経済的、かつ高速で飛行できるよう形状や角度、エンジンの取り付け部が設計し直されました。わかりやすい特徴は先端につく「ウイングレット」という、高さ1.8mの上向きに生えた小さな翼。飛行中に空気抵抗となる主翼先端にできてしまう空気の渦「翼端渦」を拡散させ、燃費を向上させる効果があります。
離着陸時に展開されるフラップも改良され、低速時の飛行がさらに安定するようにもなりました。
<目立たないところでは主翼の取り付け方の構造が変化している。-400型の方は空力改善>
● エンジン
パワーアップし、FADECを装備した新型エンジンを装備。FADECとはエンジンを制御するためのコンピュータで、デジタル制御になったことで始動の自動化や燃費の向上がなされたことが大きな違いです。
従来のクラシックジャンボと同様に3社のエンジンから選択できます。
● 操縦席
最も大きく変わったのはコクピットです。-300型までは機長と副操縦士に加え、航空機関士を入れた3名が必要でした。機関士はたくさんのアナログ式計器をチェックし、主にエンジン関連の操作や調整を行う役回りです。
-400型では「グラスコクピット」を導入。パイロットの前にあるモニターに情報が映し出されるようになり、コンピューターの判断で必要な情報がピックアップされるようになりました。デジタルな表示へと統合されて壁一面にあったアナログ計器の多くがなくなったため、航空機関士も不要になったのです。大型機で2名運航となるのは初めてのことだったため、安全面を理由にアメリカのパイロットの労働組合を中心に激しい反発が起きました。
ゆえに運航開始からしばらくの間3名体制で運航にあたっていた時期もありましたが、やがて安全上問題の無いことが確認されると正式に2名運航へと移行していきます。以後、B777やA380のような大型機でも機長・副操縦士の2名で運航することが標準となったのです。
● 客室
基本的にはベースとなった-300型と同一。頭上の荷物棚(オーバーヘッドビン)は容積の大きなものへと改良され、より多くの手荷物が収納できるようになりました。
特にコクピットを中心に従来機とは全く別物になった-400シリーズ。続いては個性ある派生型を見ていきます。
■ -400型
標準モデルとして最も多くの機数が製造されました。どこの航空会社でも社を代表するフラッグシップとして君臨し、絶大な評価を得ます。
メインデッキ(1階客室)の最前方は主にファーストクラスにあてがわれました。静かだけれども乗降は手間になるアッパーデッキ(2階客室)はビジネスクラスとして使われることが多かったようです。
全幅×全長×全高:64.4×70.7×19.4m
離陸重量:362,875kg
航続距離:13,445km
座席数:416席(3クラス)
初就航:1989年2月
製造機数:442機
■ -400F型
<-400Fは頭の「コブ」が短いのが特徴>
純粋な貨物型です。標準の-400との大きな違いはアッパーデッキの長さ。
-300の項でも触れたとおり、アッパーデッキは長い方が燃費が良くなります。ただアッパーデッキの床がメインデッキの高さを圧迫してしまうため、かさばる荷物を積むときには邪魔になってしまいます。
-400Fはあえてアッパーデッキを-200などと同じ短さにして、メインデッキの高さを稼いでいます。貨物型では長い距離を一度に飛ぶよりも多くの荷物を積むことの方が重要になるので、この方が都合がいいのです。
-200型と同様、鼻先に上向きに開く「ノーズカーゴドア」も装備しています。
モデル名のFは「Freighter(貨物機)」から。
全幅×全長×全高:64.4×70.7×19.4m
離陸重量:396,900kg
航続距離:8,232km
積載重量:113,000kg
初就航:1993年11月
製造機数:126機
■ -400M型
<機体の後ろ半分が貨物室へと変化した-400M。-400Fと同じ位置にカーゴドアが見える>
前方に旅客、後方に貨物を積んでいいとこ取りをしようとした「貨客混載型」です。見た目はほとんど-400と同じですが、よく目をこらすと機体の左後部に貨物用の大きなドアが見えます。
後方を貨物室として使っても、およそ270名の旅客も運ぶことができるのはジャンボならではです。
モデル名のMは「Mix(混載)」から。
全幅×全長×全高:64.4×70.7×19.4m
離陸重量:362,875kg
航続距離:12,594km
座席数:268席(3クラス)
初就航:1989年1月
製造機数:61機
■ -400D型
<国内の巨大な移動需要を支えた-400D。双発機ながら500席を装備できるB777-300の台頭で姿を消した>
代わりに頻繁な着陸に耐えられるように足回りを中心に強化が施されています。
モデル名のDは「Domestic(国内線)」から。
全幅×全長×全高:59.6×70.7×19.4m
離陸重量:272,200kg
航続距離:4,170km
座席数:568席(2クラス)
初就航:1991年10月
製造機数:19機
■ -400ER型 / -400ERF型
標準型の足回りを強化してより積載量を増やしたのがER型です。増えた分を燃料タンクとすればおよそ800km分長く飛べるようになり、燃料タンクとしなければその分多くの荷物や乗客を搭載できます。
旅客型のER型はカンタス航空が6機を発注しただけのごく少数派。一方積める荷物が増えるとあって、貨物型のERF型はそれなりの売れ行きとなりました。
機内やコクピットに若干の改良が加えられた以外は大きな変更点はなく、通常の-400型と比べると見分けはつきません。
-400ER:
全幅×全長×全高:64.4×70.7×19.4m
離陸重量:412,770kg
航続距離:14,251km
座席数:416席(3クラス)
初就航:2002年10月
製造機数:6機
-400ERF:
全幅×全長×全高:64.4×70.7×19.4m
離陸重量:412,775kg
航続距離:9,200km
積載重量:123,208kg
初就航:2002年10月
製造機数:40機
<標準のF型と見分けのつかないERF型。タイヤのサイズがわずかに大きくなっている>
ここまでが-400とその仲間たちで、最初からその目的で新造されたグループ。時が経って貨物型へと改造されたモデルが以下の通り。
■ -400BCF型 / -400BDSF型
<元々が旅客型のためアッパーデッキの長さや窓はそのまま。ちなみにこの機体はJALで飛んでいた機体(元JA8902)>
-400型を貨物機へと改修したもの。両者の違いはボーイングが改修したか(BCF)、イスラエルのメーカーが改修したか(BDSF)で違いはほとんどありません。元々が旅客型なので、-400Fに見られるノーズカーゴドアはありません。またアッパーデッキも長いままなので、純粋な-400Fに比べると貨物の搭載量も若干少なめです。
ただ安く貨物型を調達したい航空会社からは人気で、各社から引退した旅客型が貨物機へと生まれ変わって空を飛び続けている例も多くあります。
■ -400LCF
<明らかに異形なLCF型。機体の中央部分をそっくり交換している>
世界各地で製造されたBoeing 787の主翼や胴体などの大きな部品を、最終組み立て工場のあるアメリカ・シアトルまで運ぶためだけに改修された機体。787の愛称である「Dreamliner(ドリームライナー)にちなんで、「Dreamlifter(ドリームリフター)」の愛称がつけられています。
大きな部品を入れるため、ぼっこりと膨れた機体形状が特徴。荷物の積み込みは機体の後部をバックリとあけて行うため、どこまでもブサイクな飛行機です…
LCFは「Large Cargo Freighter(大型荷物用貨物機)」の頭文字から。4機が改造されました。
<長くて大きな主翼などを積み込むため尾部を専用の車両でバックリと開ける構造。旅客機だった頃の流麗さはそこにはない>
● まとめ
-400だけで今までの747クラシックと同じぐらいの機数が売れました。やがて世界中の空港で設備の受け入れサイズを決める基準となる飛行機となっていきます。
最新技術を持ち込んでBoeing 747シリーズのベストセラーとなった-400ファミリー。最後に登場した-400ERF型もそこそこ好調な売れ行きを見せ、ヨーロッパでは「ジャンボ」よりもさらに大きな飛行機 Airbus A380 の計画も始まっています。