おはようございます。強い日差しが差し込む台北の朝です。
街に繰り出す前に台湾の基本情報をおさらいしておきます。
沖縄より南側にある台湾は基本的に年中温暖な気候。昼間はTシャツやポロシャツ1枚で充分ですが、雨が降ったりすると肌寒くなるので上着は持っておきましょう。
言語は「國語」と呼ばれる台湾華語が標準語とされていますが、中国語(北京官話)でも通じますし、コンビニやスーパーなら片言の英語も使えるので、言語の壁はそこまで高くないはず(「台湾華語」と「台湾語」は別物)。
よく「日本語が話せる人がたくさんいる」と聞きますが、コロナ禍を挟んだせいか大して日本語は通じません。
日本人にはありがたいことに漢字の文化圏なので、書いてあることはなんとなく意味がわかります。複雑な「繁体字」で書かれているのでわかりづらいこともありますが、旧字体と思えばそこまで難しくもありません。
首都は「台北」と書くことが多いですが、正式な「臺北」という字で書かれていることもあって少し面喰らいます…
通貨はニュー台湾ドル(NTD)で、2023年9月当時のレートは1NTD=約5(4.86)円。
街に繰り出すと「50NTD」「$50」「50元」などと様々な書かれ方がされていますし、硬貨にいたっては「圓(日本人からすると円の旧字体)」表記になっていることもあって、ここでも混乱しそうになります。
とはいえ全てNTDと同じなので、「書いてある数字=NTD」と考えておけば問題なし。紙幣も硬貨も必ず数字が書かれているので、迷うことはありません。
国土に対して人口が多いこともあって、都市部は公共交通機関がかなり充実しています。Googleマップを使えば公共交通を使ったルートが簡単に調べられるので活用しましょう。
公共交通機関を使うときはICカード「悠遊カード(悠遊卡 / ヨウユウカー)」があった方が圧倒的に便利で、特にバスを使うときは必須です。空港や駅で購入できますが、セブンイレブンに行くと期間限定デザインがあったりするので旅の記念品にもなります。
Suicaのようにコンビニやドラッグストアでの決済にも対応しているので利便性は抜群。台湾に着いたら真っ先に買うべきモノ、といっても過言ではありません。
カードの発売額は100NTD、デポジットのようなものなので別にチャージが必要です。
今日の旅のスタートは台湾を代表するターミナル駅「台北駅(台北車站)」から。
MRT(地下鉄)、台鐵(在来線)、高鐵(新幹線)の他に、空港や周辺都市へ向かう高速バスも発着する交通の要衝にふさわしい貫禄です。
駅前には鉄道車両が2つ静態保存されていました。
片方はLDK50型という蒸気機関車で、元々はアメリカで製造されたタンク式のSL。ここに保存されているのはLDK58という1923年に日本車輌がコピー製造したもので、なんと1982年まで現役だったそうです。
背中合わせに置かれているのはLDR2200型ディーゼルカー。朝鮮戦争後の冷戦期に入って物資が足りない中でも、台湾の経済発展を支えるべくなんとか作られた車両でした。4両が製造され、うち1両がここで静態保存、もう1両がLDK50型とともに台湾東部の花蓮で動態保存されています。
前面デザインは当時日本で大量に走っていた「湘南電車」こと80系を参考にしたものだったそうで、後年に丸目1灯から保存車両のようなシールドビーム2灯へ交換されたとのこと。
駅舎に入ってみましょう。地上6階、地下4階という巨大な建物で、メインホールは1階から天井まで吹き抜けという迫力のある光景です。
正面に見えるのは国鉄に相当する台鐵(台湾鐵路管理局)のきっぷ売り場。オンラインで事前に予約した乗車券は、右側に並ぶ券売機で受け取りできます。
券売機でのきっぷ受け取りはいたって簡単。表示されている中国語でもだいたい意味はわかりますが、ありがたいことに日本語表記に切り替えることができます。悠遊カードのチャージもこの機械でOK。
画面の右上「チケット受け取り」をタップしましょう。
そうすると予約番号と予約時に一緒に登録したパスポート番号の入力欄が出てきます。ポチポチ画面に入力してもいいのですが、予約メールに掲載されたQRコードを画面下の読取り部にかざせばすぐにきっぷが発券されます。
いやはや、めちゃくちゃ便利!
コロナ禍の流行当初でもデジタル化の進みぶりに賞賛を浴びた台湾ですが、なるほど実際に行ってみるとこういうところで実感しますね。
台湾の鉄道旅行でお供にしたいものといえば駅弁。日本統治時代に駅弁の文化が持ち込まれた台湾では、現在にいたるまで様々な種類の「臺鐵便當」が販売されています。便當は英語でもそのまま「Bento」。
2015年の販売総額は30億NTD以上ということで、台湾を代表する文化の1つといってもいいぐらいです。
1階に1号店、地下1階にも2号店があり、いずれも営業開始は午前9時半から。「たかだか駅弁だし」と思って油断していくと、すでに開店前には20人以上が並んでいました。
開店直後はあまり品揃えが良くないらしく、80NTDの「排骨便當」のみの取扱いでした。
ちなみに袋はくれないみたいなので、自分でビニール袋を持参した方が良いでしょう。
2号店も繁盛していました。こちらは改札に近いこともあってひっきりなしに人が出入りしている感じ。1号店と違ってドリンクの品数も多いので、列車に乗る前に買うならこちらの方が便利でしょう。
お弁当も確保したことですし、少し早いですがホームへ降ります。地下1階に降りると改札口があり、きっぷを通してもう1つ降りた地下2階にホームがあります。
4B月台(番線)には9:45発の自強号花蓮ゆきが発車を待っていました。白い車体がまぶしい最新型のEMU3000型です。
台鐵の列車種別は主に4種類。
「自強號(じきょうごう / ツーチャンハオ)=特急」
「莒光號(きょこうごう / ジューグァンハオ)=急行」
「區間快車(くかんかいしゃ / チュージェンカイチャー)=快速」
「區間車(くかんしゃ / チュージェンチャー)=各駅停車」
自強号と莒光号は優等料金が必要です。近年は莒光号が自強号に格上げされるか区間快車に格下げされて大幅に減ったので、莒光号に出会う機会はかなり少なくなっています。
自強号は使用される車両によって案内が変わることがあり、従来からの客車列車は単に「自強」、白い車両は「太魯閣(たろこ / タイルーガー) 」、赤い車両は「普悠瑪(ぷゆま / プユマ)」、そして最新型は「自強3000」「新自強」と駅や表示装置によって差があります。
うろたえずに発車時刻と行先が合っているかをチェックすればOK。
4A月台に止まっている瑞芳ゆきの区間車はEMU900型。2021年に運行を開始したばかりの真新しい通勤電車で、メーカーは韓国の現代ロテム。半流線型のデザインがカッコいいですね。
台鐵では旅客用ドアから車掌が開閉操作をします。
他のドアを先に閉め、側面の安全が確認できてから乗り込んで自分のドアを閉めるという手順。日本と違って側方監視はしないようです。EMU900ではちゃんと乗務員室のドアがあるというのに。
そして9:55、いよいよこれから乗る自強号がホームに滑り込んできました。
12両の客車を電気機関車でサンドイッチするいわゆる「プッシュプル(PP)式」という構成。
1996年に台湾に姿を現した南アフリカ製の電気機関車は、今までの台湾にはない特徴的なデザインだったために「鉄道迷(鉄道マニア)」の注目をずいぶん集めたとか。
中間につながれている客車は大半が韓国の現代精工(現 現代ロテム)が手がけ、台湾製は全体の1割ちょっと。
2004年頃に設計上の問題が発見されたにもかかわらず現代ロテムがそっぽを向いたために台湾政府の怒りを買い、以降長らく韓国メーカーは台湾の鉄道車両へ参入できなかったのは割と有名な話です。
今はその不仲も解消され、EMU900型では52編成520両という大型契約を獲得しています。
指定された座席は軍人さんの隣でした。周りは空席だらけなのによりによって並び席にしなくても…と思いますが、それは隣の軍人さんも同じことをきっと感じているはず。
松山(ソンシャン)、七堵(チードゥ)という大きな駅を過ぎても通路の反対側の席には人が乗り込んでこないので、誰かが乗ってくるか軍人さんが降りるまでその席に居座ることにします。
ちなみに車掌は検札に来ず、たまに回ってくるのはゴミ回収のおばちゃんだけだったので、特に注意されることもありませんでした。
寝坊して朝ご飯を食べ損なったことですし、早速お弁当を開けましょう。PP自強号にはテーブルがないため、膝の上でお弁当を開ける昔ながらのスタイルを取ります。ドリンクホルダーはあるのですが…
「排骨(パイグー)便當」は80NTD、およそ400円とお手軽価格。ご飯が入っている量はかなり少なめ(厚さ1.5cmぐらい)ですが、具材を考えれば贅沢なぐらいです。
真ん中にドーンと置かれているのが豚肉の唐揚げ「排骨」。周囲のキャベツと枝豆にもしっかりと塩味がついています。台湾の食べ物には何にでも八角が入りますし、この弁当にも例外なく入っていますが、かなり薄い香り。八角がそこまで得意じゃないという人でも食べられます。
ちなみにこのお弁当の中で一番味が濃かったのは意外にも煮卵でした。
台湾の東側を縦断する東部幹線は景色が良いことで有名な区間です。列車はきれいな渓谷に沿って走っていますが、カーブがきつい分速度も控えめ。加速性能がどうしても劣るPP式ではなおさら速度が乗らないので、車輪をきしませながらゆったりと走って行きます。
海沿いに出るとやっとスピードが上がりました。
奥に見えているのは亀山島(クイシャンタオ)という無人島。島全体が軍事演習場というだけでなく貴重な生態系が保たれていることから、一般人がおいそれと訪れることはできないのだそう。
台北から1時間半、宜蘭(ぎらん / イーラン)に到着しました。人口45万人を抱える宜蘭県の玄関口となる駅です。
この駅で軍人さんが降り、あさかぜが本来の席に戻ると同時にお邪魔していた席には夫婦が座りました。
ようやく車内に空席が目立つようになってきたので、トイレに立ちつつ客室の写真を撮ってみます。
客室は相応の年季を感じさせはするものの、清掃が行き届いていてきれいです。座席の座り心地が良く、背中の両脇を支えるような立体的な造りになっているのであまり疲れを感じさせません。
年中蒸し暑い台湾向けの車両だけあって冷房もちゃんと効いていますから、エアコンの風が苦手な人は上に羽織るものを持って行きましょう。
PP自強号は花蓮へ向けてラストスパートをかけます。
12:35、定刻通り終点の花蓮(かれん / ホワーリェン)車站に到着しました。台北からの所要時間は2時間35分、割とあっという間の旅路でした。
ちなみにここまでの運賃+料金は440NTD(約2,200円)、時間に対して割安ですね。
鉄道車両にニックネームがつけられることの多い台湾では、PP自強号ことE1000型でも例外ではありません。その独特の顔つきから鉄道迷からはナマズとかブタといった愛称で呼ばれているとか。
>>つづく<<