あさかぜみずほの趣味活動記録簿

旅行記や主に飛行機の写真をひたすら載せ続ける、趣味のブログです。たまに日記らしき投稿もあり…?

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今ならライバルはいないSpaceJet

先日、つらつらとMRJ改めMitsubishi SpaceJet(以下MSJ)についてずいぶん悲観的なことを書きました。出所に使ったAviation Wireのみならず、メディアはどこも少なからず先行きの不安を記しています

三菱重工、スペースジェット大幅見直し 人員削減や量産停止、海外拠点再考も

たまたま見つけた朝鮮日報の記事では激しく誤認した内容を堂々と書いていました。公開期間の7日間を過ぎてしまったので内容が見られなくなってしまっていますが…

半導体・ディスプレーに続き…「メード・イン・ジャパン」旅客機も失敗

リージョナルジェット市場の80%を掌握するカナダのボンバルディア、ブラジルのエンブラエルをそれぞれエアバスボーイングが買収し、市場に牙城を築いた。中国までリージョナルジェットと中型旅客機を開発し、自国中心の普及に乗り出し、スペースジェットの立つ瀬はますます狭まった。』(一部抜粋、強調は筆者による)

文中に書いてあることはほぼ事実ですが章の締めくくりに書かれた上記の文章は著しくMSJのイメージを損ねるものだったので、ここの部分の事実は再確認しておきます。

なおJBpressでは珍しくMSJについて明るい展望を描いています。説得力のある内容ですから、時間のある方はぜひ目を通していただきたいですね。

三菱スペースジェットが勝てるこれだけの理由 - 今やライバルは1社、生き残れば市場独占の可能性も

さて、朝鮮日報の文章にツッコミを入れていきましょう。

リージョナルジェット市場の80%を掌握するカナダのボンバルディア、ブラジルのエンブラエルをそれぞれエアバスボーイングが買収し、

まずそもそも、エンブラエルボーイングに買収されていません
ボーイングと合弁でE-Jetシリーズを販売する会社ボーイング・ブラジル-コマーシャル」を立ち上げる予定でした。これを使ってボーイングがE-Jetを販売し、70~500席クラスまでを一貫してラインアップにそろえようとしたわけです。
エンブラエルとしてもボーイングの販売力と知名度を利用して販路を広げる大きなチャンスでした。

ところが大詰めを迎えていたのに、B737MAXの墜落事故などで肝心のボーイングの経営状況が急降下…2020年4月26日に両社の提携は正式に中止が発表されました。裏切られたエンブラエルは損害の救済を求める仲裁手続きを始めています。

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<共同事業の話が立ち消えになってしまったエンブラエル。スコープクローズに対応できる次世代機もまだない>


続いてエアバスに渡ったボンバルディアの小型機部門。これはリージョナル機のCRJシリーズではなく「Cシリーズ」がA220としてエアバスの販売網に加わったものです。座席数はCS100(→A220-100)が110席CS300(→A220-300)が130席と、アメリカのリージョナル機に求められるサイズよりもはるかに大きなもの。ですから、そもそもMSJとは全く競合しない存在です。
これをライバルと呼ぶにはこじつけが過ぎます。

ボンバルディアの製造する機体で直接のライバルとなるのは、先ほども挙げたCRJシリーズ。長らく製造に続くロングセラー機で、信頼のある強敵でした。
しかし2020年6月1日からは三菱重工業が事業を引き継ぎ、同じ三菱グループに入ったことでもはやライバルではなくなっています。

三菱重工、CRJ新会社「MHIRJ」発足 ボンバルディアから買収完了

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エアバスブランドに改められたCS300。アメリカのスコープクローズ適合機とはジャンルが違う>


> 中国までリージョナルジェットと中型旅客機を開発し、自国中心の普及に乗り出し

中国のリージョナル機と取り上げられているのはおそらくCOMAC(中国商用飛機)のARJ21ことと想像できますが、FAA(アメリカ連邦航空局)とEASA(欧州航空安全機関)の認可を取得していない時点で、中国と中国の息のかかった国の中でしか運航できません
FAAの認可取得を目指すMSJとはスタートラインからして違うわけです。

つまり、現時点でMSJのライバルとなる存在はゴタついているエンブラエルしかいないわけです。

しかも、スコープクローズに適合し損なって売り込める最新機材がないのもの同じ「この状況ならばエンブラエルと渡り合っていくことは充分に可能」というのが前出のJBpressの記事の内容です。

スコープクローズについては過去の弊ブログ記事に書きました。

SpaceJet延期(3年ぶり6回目)
https://cyberperorist.blog.fc2.com/blog-entry-1910.html

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<一応スコープクローズに対応した飛行機は手に入れた三菱。ただCRJシリーズはいい加減設計が古い>

もちろん、ライバルが不在もしくは少ないからといってMSJが手をこまねいていていいわけではありません。
特に機材繰りが苦しいANAは首を長くして待ち望んでいますし、日本航空グループは現在使っているERJシリーズを価値が高いうちに中古市場へ売り払いたいはずです。

当然エンブラエルボーイングとのゴタゴタが落ち着き、COVID-19を克服して航空需要が戻る頃にはスコープクローズに合わせた機体の開発に攻勢をかけているはずです。そのときには三菱は可能な限り先へ進んでいなければなりません

今回MSJの開発規模の縮小で、スコープクローズに適合したSpaceJet M100の開発を一旦停止する代わりに、M90の型式証明取得に向けて全力を注ぐ三菱航空機は発表しています。
FAAで型式証明が取得できればそのノウハウをM100へ生かすことができ、大きな足がかりとなるはずです。

初の国産旅客機YS-11、また自社で開発したビジネスジェットMU-300におけるマーケティングの苦い苦い失敗経験を生かしていかねば、朝鮮日報が意地悪く書いたように失敗作の仲間入りをしてしまいます

MSJプロジェクト(と待っている航空会社)にはなんとか粘ってもらいたいものですが…