この記事で取り上げる事故は、2024年10月現在も国土交通省運輸安全委員会によって調査が続いているものです。
素人が「○○がいけない」「××だったら助かった」などという憶測による検証をするものではありませんし、ましてや事故調査は犯人を見つけ出して吊るし上げるために行うのではありません。
事故調査は様々な側面から経緯を検証し、今後同じような状況を発生させない、あるいは起きかけたときに未然防止できるか、を導き出して提言するものです。
当ブログのコメント欄も含め、SNSなどに持論を書き込むことのないようにしてください。
また機体の残骸の写真を掲載しています。見ていて愉快なものでは決してありませんので、得意でない方はこの記事の閲覧はご遠慮ください。
2024年が明けて早々、最悪の出来事が続きました。
元旦の夕方には能登半島で最大震度7を記録する大地震が発生。被災地ではライフラインや道路が各地で寸断され、建物の下敷きになって亡くなられた方もいました。
そして翌2日夕方には支援物資の輸送に向かう海上保安庁の輸送機が羽田空港C滑走路に誤って進入、着陸寸前のJAL機と衝突し両機とも炎上という大きな航空事故も起きてしまいました。
年末年始でほぼ満席だったにもかかわらず、新千歳空港から到着しようとしていたJAL516便は的確な避難誘導により乗客・乗員ともに全員無事に脱出。
一方、衝突で火の玉となった海保機の乗組員は5人が亡くなり、一命を取り留めた機長も重傷という航空死亡事故となりました。
第2ターミナルの展望デッキを訪れる前に、まず第1ターミナル内にある航空神社で今後の空の安全を祈願します。
第1ターミナル1階の奥まったところに鎮座する「羽田航空神社」は日本の空の安全を毎日見守っています。
まだ新年ということで入口には立派な門松が飾られていました。
空港内の雑踏が伝わってこない静かな社殿の前で手を合わせ、安全を祈願しました。
地下通路を歩いて第2ターミナルへ移動し5階の展望デッキまで上がってくると、いつものような活気がありません。
目の前のC滑走路は事故機の撤去と滑走路の修復が行われているため閉鎖中。普段なら次々に離陸していく飛行機の姿は今日は一切ありません。
デッキに出るなり、滑走路の脇に積み上がるような形で残っている機体の残骸がイヤでも目に入ってきました。C滑走路に着陸しようとしていたJAL516便の機体です。
A350-900、JA13XJ。
2023年6月にあさかぜが福岡から乗って帰ってきた機体です。
たった半年前に乗ったばかりの機体が変わり果てた姿で滑走路脇に横たわっているショックは大きく、思わず呆然と立ち尽くしてしまいました。
旅客機は万が一の事故や火災の際、非常口の半分が使えなかったとしても90秒以内に全員が飛行機から逃げられる設計になっています。
しかし理論と現実とは別。
シミュレーションと違って生身の人間は勝手な行動をするし、パニックも起こします。実際、当時の機内ではパニックにはならずとも早く出せと声を荒げる乗客もいたといいます。しかし客室乗務員は冷静に安全保安要員としての職務を果たし、乗客全員を安全に機外へ誘導しました。
パイロットも手順通り機内を後ろまで回り残っていた乗客を全て避難させ、自身らも無事に機体から避難しています。
機体が全焼するような規模の火災でありながら乗客乗員が全員生還したのは奇跡ですし、その奇跡を起こせたのは乗員の日頃の訓練があったからこそです。
しかしテレビのやったことといえば、当時の様子をスマホで映した動画をただ垂れ流し、挙げ句の果てにペットがどうのこうのとまるで日本航空の対応に問題があったかのような報道でした。事の本質はそこではないのに、無関係な人たちの勝手な物言いを増長させただけ。
恥知らずとはこのことです。
もちろん後から見れば「こうするべきだった」「ああするべきだった」ということはあるでしょう。でもそのときに居合わせなかった部外者は事後の“べき論”なんてどうにだって言えますし、そのべき論は素人が唱えるものでもありません。
BBC、CNNの記事を載せておきます。
JA13XJの周囲では多くの人が作業していました。A350では初めての、さらにはCFRP(カーボンファイバー)製の機体としても初めての全損事故となったことから、メーカーのエアバスも調査員を派遣して事故調査に加わっているとのこと。
南側の展望デッキに出てみました。滑走路に誤進入した海上保安庁MAボンバル300「みずなぎ1号」(MA-722)の機体は、滑走路上からすでに片付けられていました。トラックやショベルカーの周辺に見える部品が、当該の海保機だったものでしょう…
海保機には計6名が乗り込み、能登半島地震の支援物資を積んで新潟空港へ向けて飛び立つところでした。
MA722(登録記号:JA722A)は何らかの理由でJA516便がすぐ間近に迫ったC滑走路へ誤って進入し、はるかに大きなA350に後方から衝突されて爆発炎上。機長は重傷を負いながらも脱出できましたが、残る5名は「行方不明」とされ、後日死亡が確認されました。
事故の直後、SNSやYahoo!ニュースコメント欄では「海保機はプロ意識が足りない!」と精神論を振りかざしたり、「民間空港に軍用機がいるのがおかしい!」と海保と自衛隊の区別が付かない人たちが声高に主張する投稿が目立ちました。
本来はこうした勘違いや勝手な“事故調査”を牽制するのが一般的なニュースメディアの仕事のはずなのに、冷静になるよう呼びかけていたのは現役パイロットや航空趣味者ばかりだったという…
展望デッキの片隅には花と水が手向けられていました。
黙祷を捧げて目を開けると、あさかぜ以外にも何人か手を合わせたり黙祷を捧げている方がいらっしゃいました。
直接的な事故原因が海保機の誤進入とはいえ、彼らにも先を急ぐミッションがあり、それを忠実にこなそうとしていたことには違いありません。ほんのわずかな手違いがこのようなことになってしまったことは残念でなりませんし、同時にもたらされた結果の大きさにおそれおののきます。
滑走路上にはJAL機から脱落したであろう部品がまだ落ちていました。
運輸安全委員会による事故調査では、燃え残った機体の残骸、散乱した部品、フライトレコーダーやボイスレコーダーなどの記録、パイロットや管制官などの当事者の証言、さらには機体の整備状況や当事者の勤務状態など、様々なモノやデータを網羅して原因究明が進められます。
膨大な情報を検証するので、大きな事故では最終結果が発表されるまで年単位での調査になることも珍しくありません。
地道で徹底した調査の積み重ねで、我々の空の旅は安全なものになっているわけですし、今後はさらに安全なものへと向上していくはずです。
「安全規則は、先人の血で書かれた文字である」とはよく言ったもので、こんにちの安全は尊い犠牲の元に成り立っています。それを忘れることのないように日々過ごしていきたいものですね。
JA13XJ / Japan Airlines / Airbus A350-900
在りし日のJA13XJ。2022年9月19日、羽田空港にて撮影。