雨が降りそうな空模様に見えますが、実際のところは海霧が立ちこめているのでこう見えています。海霧というのは地面と海水の温度差から発生するもので、てっきり朝晩しか発生しないものかと思っていたら昼間でもこんなに出るものなのですね…
南三陸の海を一望できるお風呂がウリのひとつ、「南三陸ホテル観洋」の横を通り過ぎます。
強固な岩盤の上に建っているこのホテルは地震そのものでは大きな被害を受けず、津波の到達しなかった3階から上の客室を避難場所として提供したそうです。その数半年間で600人。
翌2012年には多くの人命を救助したことが評価され、社会貢献支援財団から表彰されています。
ホテルを通り過ぎて少し走ると、南三陸町の中心部に出ます。もう1つ、多くの人命を救った施設を見ておきましょう。
● スタート地点から:703km
先ほどの南三陸ホテル観洋の運営元が所有していた結婚式場「ブライダルパレス 高野会館」です。ちょうどここで集会を行っていた高齢者と近隣住民合わせて327名、そしてイヌ2匹がこの建物の屋上に避難して助かりました。
壁を見ると津波が到達した高さのラインが描かれています。建物の3階までまるごと飲み込まれ、屋上までギリギリに迫っていたことがわかります。屋上にはヒラメやソイなどの魚が飛び込んできたそうですから、本当に目前に迫る勢いだったのでしょう。その恐怖感たるや…!
建物はホテルが主催している「語り部ツアー」で回る以外は立入禁止。民間で管理しているので仕方がないかもしれませんが、やろうと思えば誰でも入れるような状態になっているのは少々不安を覚えます。侵入することでのケガもそうですし、ならず者による破壊行為もあるかもしれません。
※2022年10月には何者かが不法侵入し、内部の壁などを一部破壊する事件が発生しています。罰当たりなとんでもない話です。
建物と駐車場を高い防潮堤、後ろ側はかさ上げした道路が取り囲んでいます。牙をむく自然の恐ろしさがこの防潮堤の高さから伝わってきます。
高野会館から川を挟んだ反対側は震災復興で建設された観光施設「南三陸さんさん商店街」が運営されています。あいにく3時間前にご飯を食べたばかりなので今回は食べませんでしたが、季節によって変わる海鮮丼「キラキラ丼」が代表的なグルメになっています。
クルマで回ることの難点はお酒が飲めないことです。おいしい海の幸と、おいしい地酒という組み合わせは旅行中の最高の楽しみですが、ハンドルを握る以上はそれができません…
多くの震災遺構はクルマでないと到達の難しい場所ばかりですが、この南三陸さんさん商店街のすぐ裏側にはJR東日本のBRT志津川駅が設けられているので、かなり訪れやすい部類に入るのではないでしょうか。
BRTで来ればお酒も飲めますし。
商店街の裏側に見える大きな屋根は建設中の「南三陸311メモリアル」(※2022年10月開館)です。流行に乗ったのか隈研吾氏のデザインが採用されているとか。
防潮堤の上に立ってみるといかに高く、そして堅牢に作られているかがよくわかります。
ただ改めて高野会館の壁とを見比べてみると、あの時の津波はこの新しい防潮堤さえも軽々超えられる高さだったというわけです。それでもないよりはあった方が、仮に同じぐらいの津波が来たとしても被害が軽減されるのは間違いありません。
商店街から川を渡ってすぐのところにある南三陸町震災復興祈念公園。
鉄骨だけ残されているのは南三陸町の旧防災対策庁舎です。壁はほとんど津波によって押し流されてしまっています。
当初の津波の到達予想は6mで、多くの職員が防災庁舎の屋上に避難していました。しかし予想値は10mに上がり、その予想値をも上回った津波は屋上のさらに2m上の15.5mにまで到達。助かったのは11人だけで、庁舎内外にいた43人がそのまま帰らぬ人となってしまったのです。
津波がすぐ目の前まで迫る防災庁舎の中では、最後の最後まで防災無線で住民に避難を呼びかけた若い女性職員の姿がありました。その職員の方も命を落とすことになってしまいましたが、放送で避難し命を救われた人が間違いなく大勢いたことでしょう。それがせめてもの救いです…
防災庁舎が津波に襲われる光景は、屋上に避難していた職員と、周辺の建物に避難していた人によって写真が残されています。
かなり精神的にダメージが来るものでもあるので無理に見ない方が良いとは思いますが、自然災害の恐ろしさを学ぶ貴重な資料です。
<↑記載のリンク先はメンタルも含めて元気なときにご覧になることをオススメします>
公園の中央には祈りの丘が設けられています。
2段になっている下側は「高さのみち」という、南三陸町に到達した津波の高さの平均である海抜16.5mを表した歩道。
志津川をまたぐ中橋は「311メモリアル」と同じく隈研吾氏がデザイン・設計した人道橋。床板などの木材は南三陸町の杉が使用されているそうです。
だんだん時間が押してきました…
もう1つ見ておきたい震災遺構があるので、少し急ぎ足でクルマを走らせます。
しばらくぶりに三陸道へ入り、複雑なリアス海岸の山をトンネルや橋でまっすぐ走り抜けていきます。普通の高速道路に比べたら坂やカーブが多いとはいえ、海岸線沿いを走る一般国道に比べれば線形はかなり良好です。
景色としてはいまひとつかもしれませんが、荷物の輸送としてはこれほど役に立つ道路はありません。
>>つづく<<