2022年7月11日、全日本空輸(ANA)の親会社であるANAホールディングスがBoeing 737 MAXを確定20機、オプション10機の計30機発注したことを発表しました。2019年1月に導入の意向を示していたものが正式なオーダーとなったもので、国内の航空会社としては初めての737MAXシリーズの発注となりました。
737MAXシリーズは現在国内で運航されている737-700、737-800(NextGeneration=NGシリーズ)のさらに次世代型となるモデルで、ANA HDが発注したのは-800とほぼ同サイズの737 MAX 8です。
なおMAXシリーズの表記には揺れがあり、正式名称は「737-8」のようですが、当のボーイングも「737 MAX 8」と日本語版ウェブサイトに掲載しているので、どれが正しいのやら…
-800と紛らわしいので、ここでは「737 MAX 8」と書くことにします。
<シンガポールのシルクエアで運航されているB737 MAX 8。2019年1月の撮影当時はまだ1度目の墜落事故のあとで、ほぼ通常通り運用されていた>
ともかくその737 MAX 8は2025年度から導入が始まり、現在運用している737-800のおそらく古い方から順次置き換えていく予定だそう。
まだ3年近く先の話なので機内のシート配置なんかはもちろん発表されていませんが、現行の-800よりも席数はわずかに増えるのではないでしょうか。
導入の意向を示してから発注まで3年半を要したのは、ライオンエア(インドネシア)とエチオピア航空で立て続けに発生した墜落事故が影響していました。
- 事故の主原因となった姿勢制御システム「MCAS」の改修やマニュアルの改訂、パイロットの教育など一連の見直しが完了したこと。
- 運航再開後、世界46社で大きなトラブルが発生していないこと。
これらから信頼性が担保されたとして正式発注に至ったようです。
同じ737シリーズということでパイロットの操縦資格が共通化でき、現行の737-800からの移行が短い期間で済む点も、航空会社にとっては大きな利点といえます。
<39機のB737-800を運航するANA。初期導入は2008年>
さて、このANAのB737MAXの発注を受けて、気になるのは他の日本国内エアラインの動向です。特に737-800の運航機数が多い日本航空(JAL)とスカイマーク(SKY)には導入年次の古い機体も多く、ANAグループと同様に後継機の検討が本格的に始められていてもおかしくありません。
2022年6月30日のBloombergの報道によれば、日本航空は現行の737-800の後継機として737MAXかエアバス A320neoを検討しているとか。どちらになるかはまだ初期段階なので決まっておらず、せいぜい30~50機を導入するぐらいの話しかわかっていません。
とはいえBoeing 777シリーズの後継にAirbus A350を選ぶというJALの歴史からするとイレギュラーな選択をしたぐらいですから、A320neoが選ばれてもおかしくありません。グループのLCC、ジェットスター・ジャパン(JJP)ではA320ceoやA321LRの運航実績もあるわけですし、エアバス機のノウハウは充分にあります。
<JAL本体は45機のB737-800を運航中。導入初年はANAよりわずかに早い2007年だが、国内線仕様は2021年7月までにリニューアルが済んでいて快適>
スカイマークも2020年2月、航空新聞社の取材に対し
『成長戦略について、「次の機材をどうするのかということが重要なファクター」』
と述べており、後継機の検討をしていることは匂わせていました。
ただこの後から例のコロナ禍へと入ってしまい、成長戦略に必要な国際線の再開や新設ができてないなど厳しい情勢が続いていますので、どれほど具体的な話になっているかはわかりません…
一応は737MAXが最有力の候補ではあったようですが、7月19日の日本経済新聞によれば、従来よりも大きな機材を導入するのも検討しているとか。A330の二の舞にならなければいいのですが…
<スカイマークは29機のB737-800を運航中で、モノクラス177席に統一し効率的な運用が行われている。同社は国内で初めてBSI(Boeing Sky Interior)を導入>
ヒコーキの世界で難しいのは、単純に大きな機材を入れるといってもクルマのように増やせばいいというものではないことです。
民間の飛行機(旅客機とか貨物機とか)には操縦資格というものがあって、パイロットは同時に2機種以上には乗務できません。例えばBoeing 787を入れたとしたら操縦資格はB737とは別になってしまい、B737からの移行には数週間の訓練が必要です。「今日はB787-8で明日はB787-9に乗務する」というのは同じ操縦資格なのでできますが、「今日はB787-8で明日はB737-800に乗務する」というのはできないのです。
操縦資格だけでなく整備士の資格も違いますから、機種を増やすというのは外から眺めているよりもずっと大変なこと。
必要な訓練・養成の遅れからA330-300の就航が予定より半年も遅れ、直接的ではないとはいえ2015年の経営破綻につながっていったことは他でもないスカイマーク自身が経験しているわけです。その教訓を踏まえての「大型化」方針だとは思いますけどね…
<大失敗に終わったスカイマークのA330。意欲的な取り組みだったものの、いろいろなマイナス要因が重なった結果だった>
いずれにせよ、日本で最も規模の大きなANAグループが737MAXを正式発注したことで、他のライバルエアラインでもいよいよ本格的な検討に入ることは間違いなさそうです。
どんな機材が選ばれるのか、いつから就航するのか、どこへ飛ぶのか。今後の「空模様」が楽しみですね。
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参考資料:
ANAついに「737MAXへ更新」解禁 他社で2度の事故もなぜ導入継続? それが「安全で効率的」な理由 - 乗りものニュース
https://trafficnews.jp/post/120421
最新鋭機材の導入に関する契約変更・締結について - ANAホールディングス
https://www.anahd.co.jp/group/pr/202207/20220711.html
Japan Airlines Said to Consider Short-Haul Fleet Replacement - Bloomberg
スカイマーク、機材の大型化を検討 B737-800型機の後続機にはエアバス機も候補 日経報道 - sky-budget
https://sky-budget.com/2022/07/20/skymark-fleet-news/
SKY洞社長、成長戦略には「次期機材が鍵」 - 航空新聞社