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翌朝。真冬の時期は-30℃まで下がることもある名寄市ですが、今朝の気温はなんとプラス0.5℃。風もほとんどなく温かいぐらいです。およそ北海道内陸の冬らしくない…
混雑を考えて早めにホテルをチェックアウトしてきましたが、どうもその心配は必要なかったようです。
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昨晩は暗くてちゃんと見ることのできなかったJRの名寄駅舎。現在の駅舎は1927年に建設された歴史のある建物です。今でこそ宗谷本線の列車しか発着しない駅になっていますが、1989年までは遠軽(石北本線)までの名寄本線が、1995年までは深川(函館本線)までの深名線が発着するターミナル駅でした。
駅前のバスターミナルからは札幌への高速バスが1日5往復運行されています。北海道中央バスと旭川拠点の道北バスの共同運行で、片道の所要時間は3時間半。
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こちらは名寄に本社を置く名士バス。市内の路線バスのほか、名寄本線の代替バスの運行なども担っています。
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そして本日乗るのはもう1つの廃線、深名(しんめい)線の代替バス。名寄本線側と違い、こちらは廃線までの経緯もあって表向きはJRグループ直属のJR北海道バスによる運行です。名寄~深川間を通して走るバスはなく、全て途中の幌加内で乗り継ぎが必要になります。当日中に幌加内で乗り継ぐ場合には通し運賃で計算してもらえます。
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8時53分、あさかぜだけを乗せて名寄駅を発車しました。市内の主要箇所を回りながらバスはこまめに停車しますが、誰一人として乗車のないまま市街地を離れます。学生が冬休みでなければもっと乗車があるのでしょうか…?
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市街地を外れると家らしい家はほとんどなくなりました。バス停は2~3分間隔で設置されていますが、バスは放送を流すだけでどこにも止まることがありません。
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山に分け入ってくるとバス停の間隔が10~20分も開きます。その辺の路線バスの車両が右へ左へ急なカーブを切りながら高度を上げていくので、なんだか不思議な気分です。高度が上がるにつれてだんだん積雪量も多くなってきました。
利用客数が1日あたり300人ちょっとという過疎路線にも関わらず1995年まで廃止を免れたのは、深名線に並行する道路事情が大きく関わっていました。廃止が検討された1980年当時、山間の区間は降雪量が多いにも関わらずちゃんと除雪される道路の整備が間に合っていませんでした。そのまま鉄道を廃止してしまうと沿線住民は冬季の移動手段がなくなってしまいます。
代替手段となる道路の整備が完了したのは平成に入ってからのこと。
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久々にバスが停車しました。
ここは「母子里(もしり)」という地区。ここは1978年に日本で最も低い気温の-41.2℃を記録した場所です。バス停から少し歩いたところにはそれを記念した公園「母子里クリスタルパーク」が設置されています。敷地内にはつららをイメージした「クリスタルピークス」なるモニュメントが置かれているのだとか。わざわざそのために来る観光客はいかほどいるのか、という気もしますが…
停車はしたもののただの時間調整だったようで、引き続き乗客はあさかぜ1人の状態のまま母子里を発車。
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おおよそ山を登りきったのか、周囲の景色が少し開けます。開けたところで車窓はひたすら白い雪…
バスに転換され、当初は鉄道よりも運行便数を増やすなどして利便性を向上させようとした深名線。しかしただでさえ少なかった沿線では過疎化がさらに進み、2003年の利用客数は1日平均200人を下回る状況。そこから15年経った現在ではさらに減っていそうです。
当然そんな有様では採算など取れるはずがないのですが、沿線との取り決めで「運行はJR北海道バスが行う」ということになっているのでJRバスのブランドを外すわけにはいきません。よって2002年から道北バスへ営業所ごと委託という形を取っています。なので最初に「表向きは」と書いたわけです。
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車窓に広大な雪原が見えてきました。真冬なのでそう見えますが実態は湖。「朱鞠内(しゅまりない)湖」という日本最大の人造湖です。1943年に完成した雨竜第一ダムに付随した湖で、湛水面積は23.73平方kmで日本最大。貯水容量も1956年までは日本最大でした。
戦時中の建設工事ゆえに罪人や捕虜を使った「タコ部屋労働」が行われたことでも有名で、日本の闇の歴史が垣間見える建造物でもあります。
このダムの建設のために整備されたのが今トレースしている深名線。朱鞠内まで到達したときには「幌加内(ほろかない)線」と呼ばれていましたが、1941年に名寄まで全通した際に「深名線」へと改められています。
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暗い歴史も持ち合わせる朱鞠内湖ですが、現在はこのあたりでの大きな観光地として名を馳せています。湖畔にはキャンプ場が整備され、季節を問わず釣りもできるとのこと。それなりの規模のアウトドア施設になっているようですが、交通の便は良いとはいえません…
いや、北海道民からすれば150km離れているぐらいならそこまで「遠い」と感じないそうですから、ちょっと足を伸ばしているぐらいにしか思わないのでしょうか。
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朱鞠内の市街地で再び時間調整。朱鞠内湖の付近からすでに幌加内町に入っています。暖冬だなんだと言われていても、さすがに北海道の内陸部はかなりの積雪量です。このあたりは特別豪雪地帯の指定を受けていて、2018年2月には積雪量326cmを記録しました。
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朝10時だというのにほとんど人の姿を見かけなかった朱鞠内地区。乗客も誰もおらず、引き続き乗客はあさかぜ1人の状態で発車します。
積雪が増えれば線路跡の盛り上がりが強調されてわかるかな、なんて考えていましたが、甘い考えだったようです。目をこらして色々見てもさっぱりわかりません。
車窓に突然小屋のような木造建築が現れます。目をこらして見ると「添牛内駅」という看板が。ようやく深名線の廃線跡とわかるものを発見できました。
木材や穀物が貨物列車で出荷されていた時代もあり、構内はかなり広かったのだとか。バスの車内からは見えませんでしたが…1995年9月の深名線廃止まで残った駅ですが、1982年からは実質的に無人駅となっていたようです。
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朱鞠内湖を過ぎたあたりから降り始めた雪はだんだん強くなってきました。
民家もほとんど無いような道に突然現れたのは「幌加内せいわ温泉ルオント」。道の駅として機能している温浴施設で、夏の間だけの宿泊施設としてバンガローも併設されています。
バスも「ルオント前」というバス停で施設の前に乗り入れますが、どうやらこの日は施設のリニューアル工事か何かが行われていたようで営業していませんでした。当然乗車はなくバスはそのまま通り抜けます。
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座っているのと反対側、バスの左側に突然現れたのは「第三雨竜川橋梁」です。昭和6年に完成した長さ100mの大きな鉄橋で、真ん中の目立つトラス橋は45mもあり、前後にはイギリスから輸入した橋桁が使われています。
谷の合間で川の流れも速く、深名線の建設工事では難所と言われた場所の1つです。廃線の際に沿線住民からの保存の声が上がり、廃止から25年が経過した現在でも往時の姿を残しています。
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終点の幌加内が近づくにつれ、北海道らしい広々とした平地が広がってきます。ここ幌加内町はそばが名産。そばというと長野県というイメージが強くありますが、実はそば畑が日本で最も多いのは幌加内町。北海道全体で見ると、2019年のそば(厳密には乾燥させたそばの実)の収穫量は2万トン弱で実に国内の47%を占めているのです。2位は長野県ですが、3千トン弱と6倍以上の差があります。
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名寄からおよそ2時間40分、バスターミナルも兼ねた幌加内町交流プラザに到着しました。バスの系統は先ほども書いたとおり全て幌加内で分割されており、乗継が必要です。幌加内から先へその日のうちに乗り通す人は運賃を通しで計算してくれるので、幌加内の到着時に運転士さんに伝えると全区間分を精算の上で乗り継ぎ券を発行してくれます。
名寄から深川までは2,520円(2019年12月現在)でした。
実際のところは乗務員の休憩のための系統分割のようで、到着したバスはそのまま深川ゆきとなって出発します。
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せっかく幌加内まで来ているのですから、地元産のそばを食べることにしましょう。
観光協会の中には「雪月花」というそば屋さんが入っており、その日の朝に打った幌加内そばを味わうことができます。ちょうど11時から営業だったのでほとんど待つことなく店内へ。
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天ぷらそばをいただきます。
そばのつけつゆは「濃い口」「薄口」の2種類から選ぶようになっています。そばの香りを楽しむのであれば薄口だそうなのでそれにしてみましたが、江戸っ子が好むような濃い醤油味のつゆに慣れているとかなり薄味。
しっかりとしたコシとモチモチ感のあるそばは関東の立ち食いそばでは味わえない贅沢です。もちろん立ち食いそばよりずっと値は張りますが、新鮮で本格的なそばを味わうならば妥当な金額でしょう。
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建物の2階には「JR深名線資料室」が入っていて深名線の歴史をたどることができます。
幌加内駅は最後まで有人駅だっただけあって、長距離の乗車券も発売していたようです。運賃表には道内の主要な駅はもちろん、東京都区内までの運賃も記載されていました。
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実際に使われていたレールや駅名標の展示。書かれているひらがなから駅名に当てられた漢字を想像するのはなかなか難しいものがあります。
鉄道時代は現在のように幌加内ではなくほとんどの列車は朱鞠内で運用が分かれており、それぞれ3往復ずつの設定。ただしほぼ乗継は考慮されておらず、最末期は同じ幌加内町内を1日で往復するのが困難な場所があったといいます。深川~幌加内間の区間列車も2往復設定されていたようです。
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観光協会の入る交流プラザは幌加内の駅跡地ではありません。次の深川ゆきのバスまで時間がまだありますし、せっかくこんなところまで来ているのですから、幌加内の駅があった実際の場所まで歩いてみましょう。
南北に60kmほどもある幌加内町は、面積だけで見れば福島県福島市と同じぐらい。しかし人口はたった1,500人程度しかおらず、人口密度は2人を下回ります。北海道内では「最も人口の少ない町」であり、人口密度の低さは日本一…
北海道ではよくある石炭産業で栄えた街でもなく、さぞかし厳しい気候の中農業で生計を立ててきたのでしょう。
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日本全国で暖冬だと騒がれる中、幌加内はまるで関係ないと言わんばかりに雪が積もっています。
観光プラザから徒歩5分ほどのところにJR北海道バスの営業所がありました。この後の深川ゆきの便になると思われるバスの後ろ側には山々が連なっています。
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そして営業所からすぐ見える場所にあるのが深名線の幌加内駅があった場所。2本の松と石碑があるだけの寂しい景色です。本当はその前にレールも数メートル残されているのですが、雪に埋もれて全くわかりません。
1929年に開業し、1995年9月に廃止されてからも駅舎は集会所やバスの待合室として使われていたそうですが、2000年に火災で焼失。残っていたロータリーやホームも2002年に道路工事によって姿を消したのだとか。
Wikipediaの写真を見ると少なくとも2004年まではJR北海道の駅名標が残っていますが、ご覧の通りそれもなくなっています。
碑文も雪に覆われて読むことはできず、何も知らずにここへ来た人なら「何なんだろうこれは?」と首をかしげて立ち去るだけでしょう。往時を偲ぶものは何も残されていない、と言っても過言ではありません。
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除雪作業の邪魔にならないように、目的を果たしたらさっさと退却します。
幌加内から深川までは1時間ちょっとのバス旅です。さっき営業所に止まっていた車両で、こちらは座席がリクライニングして快適です。
名寄からの2時間40分がこのバスだったら快適だったのにと思いますが、普段は学生がいたりして混み合うのかもしれませんね。
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14時前、終点の深川に到着。これで深名線のルートをトレースできました。雪があったせいかもしれませんが想像以上に深名線の跡を見ることはできず、ちょっと残念です。雪がないシーズンにクルマで回ればもう少し違った結果になるのかもしれません。
_DSC1960 posted by (C)あさかぜみずほ
深川からは特急「ライラック」と快速「エアポート」を乗り継いで一目散に新千歳空港へ。やはり雪の影響が少ないからか、特急は大きく遅れずに札幌駅に到着しました。
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空港へ着く頃にはもう日はほとんど暮れかかっていますし、今回は望遠レンズも持ってきていないので飛行機の撮影もできません。やることと言えば脇目も振らずにラウンジに入ることぐらいです。
JALのサクララウンジにはどこも複数の銘柄のビールが用意されていますが、やはり北海道に来ているからにはサッポロクラシックでしょう。何度飲んでも飲み飽きない味わいがたまりません。夏の暑いときに飲んでも良し、冬の寒いときに食事と一緒に飲んでも良し、北海道に来てサッポロクラシックを飲まないなら一体何を飲むんだ、というぐらい。
204305 posted by (C)あさかぜみずほ
冬の北海道らしさをあまり体感することなく帰ってきた今回の旅行でしたが、まだ北海道へ来る予定はありますから次回へのお楽しみとします。