中国から拡散したCOVID-19の影響で、世界中に不景気の嵐が吹き荒れています。日本でも無敵の強さに見えていたJR東海やJR東日本が新幹線の利用低迷で赤字転落待ったなし、という有様になっており、事の深刻さが伝わってきます。
航空業界も同様で、ANAや日本航空は様々な金融機関からの資金集めに奔走する状況。海外に目を向ければ、以前から経営の怪しかった南アフリカ航空、ヴァージン・オーストラリア、タイ国際航空などがとどめを刺されて経営破綻しました。盤石だったはずの「空飛ぶドイツ帝国」ルフトハンザドイツ航空は政府から1兆円規模の支援を受ける代わりに、フランクフルトとミュンヘンの発着枠を他社へ譲り渡すことになっています。
3月から成田に就航予定だったイスラエルのエルアル航空は、少なくとも年内の就航はなくなってしまいました。注目の存在だっただけに、マニアとしては残念です…
<2020年注目の新星になるはずだったエルアル航空。同社もCOVID-19の影響で経営状況が急降下>
資金調達と同時に費用節約にも航空各社は必死です。
古くなったり余ったりしている機体の売却を早めて整備費や駐機料を減らしつつ、新たに導入予定の機体の納入を遅らせたり、製造されていない分はキャンセルも検討するなど、去年までの勢いが幻覚であったかのようです。
それを受けて今度は航空機メーカーにも不景気の波が押し寄せてきています。
飛行機を納入できなければ売上になりませんし、作った飛行機を置いておく場所も足りなくなります。メーカーとしては早く引き取らせたいし、エアラインは可能な限り待ってもらいたい。そんな中でメーカーとエアラインの間で確執も生まれてしまっているようです。
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一方、未だ量産機の納入にこぎつけてさえいない三菱航空機のスペースジェット(Mitsubishi SpaceJet、以後MSJと略)。納入していないので当然お金は入ってきませんし、開発が長期化しているので出費はかさむ一方。親会社の三菱重工業もCOVID-19の影響とはもちろん無縁ではなく、そんな状況で長年続いているMSJ開発プロジェクトに割く予算がなくなってきました。
2020年のMSJ開発予算は半減した600億円。経費圧縮のため、アメリカとカナダにある拠点は2つを閉鎖して1つのみに集約します。90席クラスのMSJ90と並行して進められていた70席クラスのMSJ100は開発を一旦凍結することを発表し、ただでさえ怪しかった雲行きは更に悪くなっています。
本来ならアメリカへ持ち込んでいるはずの最新の飛行試験機(JA26MJ)はまだ名古屋にいるままで渡米のメドは立たず、どうやらその試験機でもFAA(アメリカ連邦航空局、航空業界のドン)の要求に沿った安全性能には至っていないらしく、2021年のANAへの初号機納入はすでに厳しい状況です。
<幻の旅客機となる可能性も出てきた三菱スペースジェット。写真はMRJ時代>
更に悪いことに、MSJ90をキャンセルした代わりにMSJ100への発注変更を検討していたトランス・ステーツ社は今回のコロナウイルス騒ぎの中で倒産してしまいました。可能性のあったアメリカの大口顧客が消えてなくなってしまったのです。
いくらアメリカのリージョナル機市場にマッチしているとはいえ、買ってもらえる見込みのないものを作る意味はありませんし、そんな余裕もありません。前述の通り航空業界は例のないほどの不景気ですから、現状はなおのこと受注が見込めません。
MSJ100の開発が凍結されるのも無理はない話です。
Aviation Wireによれば、このままMSJ事業は中止、という動きもあるそうです。
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1機でも顧客に売ってしまったら、少なくとも20年程度はサポートを続けなければなりません。売れる飛行機ならまだしも、現状のMSJでは厳しいものがあります。少数の機体のためにサポートを続けるのは、メーカーにとって重い負担になるからです。
「それなら、売れても儲けにならないどころか結局は赤字になるぐらいなら、いっそここで終わりにしてしまおう。損は承知の上で、これ以上赤字を大きくしないためにもMSJの開発にケリをつけよう。」
という話が持ち上がっているのだとか。
まさかここまで来て開発中止の可能性を目にすることになるとは、ヒコーキマニアとしてはショックを隠せません…
しかし理由を聞くと納得せざるを得ないのもまた事実。
それにしても、当面の間使うつもりでエンブラエルのERJシリーズを入れたJALグループはまだしも、MSJの納入ありきで機材導入計画を立て、うまく行かずに綱渡り状態のANAグループにはまた巨大な頭痛の種ができてしまいました。幸か不幸か現状では機材に余りが出ているからいいものの、需要が戻ってくればいずれこの問題にまた直面することになります。